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2025/6/4

【燃料電池】熊本大学産業ナノマテリアル研究所の畠山一翔助教と伊田進太郎教授らの研究グループ、粘土鉱物から生まれた中低温領域で機能するプロトン伝導性ナノシート積層型固体電解質開発

ポイント
・天然の粘土鉱物からナノシート*1を抽出し、精密な積層プロセスにより柔軟かつ成形性に優れた無機ナノシート積層膜の作製に成功した。
・得られた積層膜は、相対湿度100%下において3×10-3 S/cm @10℃、6.2×10-3 S/cm @100℃、8.7×10-3 S/cm@140℃のプロトン伝導性*2を示した。
・同膜はプロトン伝導性に加え、H2ガスに対して高分子固体電解質よりも高いバリア性を示し、電解質膜として要求されるガス分離性と化学的安定性を両立していた。
・同膜を固体電解質*3として適用した燃料電池では、90℃(相対湿度100%)において最大260 mW/cm2程度の出力を達成し、-10~140℃の広い温度範囲での作動も確認された。
概要
 熊本大学産業ナノマテリアル研究所の畠山一翔助教と伊田進太郎教授らの研究グループは、天然の粘土鉱物からナノシートを抽出し、精密に積層させることで燃料電池用の新規固体電解質の開発に成功した。無機材料を固体電解質とした燃料電池は家庭用電源として実用化まで至っている。しかし、未だに作動温度は800℃以上と高く、市販されている車体などへの搭載は80~90℃で定常動作する高分子固体電解質を使用した燃料電池が主流となっている。次世代燃料電池搭載車両では10℃以上での作動も求められている。一方で高分子固体電解質は、中温動作時の水素クロスオーバー(水素が漏れ出て発電効率が低下する現象)が同程度の膜厚のセラミックス電解質と比べて大きいことや、フッ素使用による環境負荷の指摘もあり、これらを一度に解決できる新規材料探索が次世代燃料電池の課題でもある。今回、粘土鉱物から抽出した無機ナノシートを積層させた新たな無機固体電解質膜の開発に成功した。開発した膜は、中低温領域(氷点下~150℃以下)でプロトン伝導性と水素バリア性、化学的安定性を高いレベルで両立していることが分かった。この膜を固体電解質とした燃料電池は、-10~140℃の広い温度範囲で作動し、90℃(相対湿度100%)において最大264 mW/cm2の出力密度を達成した。
 この研究成果は2025年5月16日に英国王立化学会が発行する科学雑誌「Journal of Materials Chemistry A」にオンライン掲載された。
 なお、この研究は防衛装備庁安全保障技術研究推進制度、科学技術振興機構先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)、日本学術振興会科学研究費助成事業(研究課題/領域番号:23H00314)の援助を受けて行われた。
今後の展開
 今回開発した固体電解質は優れた特性を持つことに加え、天然粘土鉱物由来の材料であり、低環境負荷かつ経済的にも優れた材料となり得る。そのため、開発した膜を用いた燃料電池開発を進めていくことで、持続可能な人類の発展に大きく貢献できる。
*1 ナノシート
 原子スケール(1nm程度)の厚さを持つ2次元物質のこと。3次元の材料では得られないユニークな物性を示す。例として2010年にノーベル賞を受賞したグラフェンが有名である。
*2 プロトン伝導性
 プロトン(水素イオン、H+)を伝導させる性質のこと。高いプロトン伝導性を持つ物質をプロトン伝導体という。
*3 固体電解質
 イオンを伝導する性質を持つ固体のこと。通常の固体は原子やイオンが固定されており動くことができないが、固体電解質の場合は電圧印加によりイオンを伝導させることができる。燃料電池の固体電解質ではプロトンまたは酸化物イオン(O2-)が伝導する。
<論文情報>
 論文名:Low-temperature fuel cells using proton-conducting silicate solid electrolyte
 著者:Kazuto Hatakeyama,* Tatsuki Tsugawa, Haruki Watanabe, Kanako Oka, Sho Kinoshita, Keisuke Awaya, Michio Koinuma, and Shintaro Ida*
 掲載誌:Journal of Materials Chemistry A
 doi:doi.org/10.1039/D5TA02486B
 URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2025/ta/d5ta02486b

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