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2024/10/23
【シリコンフォトニクス】東レ、光半導体高速実装技術開発
東レは、光通信技術(シリコンフォトニクス*1)に用いられる光半導体*2(InP(インジウムリン)*3等)をシリコン基板上に実装するための材料および技術を開発した。
AIの進展による高速通信の拡大により、データセンターの増設が続いている一方で、多量の電力消費を伴うデータセンターの増加による将来の電力需要増大が懸念されている。このため、電気通信よりも低エネルギー損失である光通信を、現在の長距離通信だけでなく、データセンター内で用いられる短距離(<1m)通信に適用するための開発が加速している。
この実現のためには、シリコン基板上に光回路を形成するシリコンフォトニクスが利用されるが、InP系等のⅢ-Ⅴ族化合物半導体*4をベースとした光半導体をシリコン基板上実装する必要がある。そして、大量で高速に実装する必要があり、そのためのマストランスファー*5技術が求められている。
そこで東レは、InP等の光半導体をレーザーで高速転写するための転写材料、および転写されたチップをキャッチしてそのままシリコン基板上に直接接合が可能なキャッチ材料、およびその実装プロセス技術について、東レエンジニアリングと連携して開発した。
東レエンジニアリングは、半導体実装用のボンダーおよびレーザーマストランスファーの設備技術を保有しており、その取り組みにより、光半導体の実装速度が大幅に向上し、6000個/分(従来のフリップチップボンダーでは約4個/分、※東レ調べ)の高速実装が可能となり、データセンター内での光通信適用の加速が見込まれる。今後も連携して、実デバイスを用いた技術確立を2025年までに実現し、早期の量産適用を目指す。
<開発した材料・技術の詳細>
(1)転写材料(耐衝撃性制御)
東レは、既にマイクロLED向けに転写材料を開発済み。しかし、今回用いたInPベースの光半導体は縦横640μm×90μm、厚さ3μm以下と、一般的なマイクロLEDよりも縦横サイズは大きい一方、厚さが極端に薄いチップ。今回、これを破損させることなく、1回のレーザー照射で転写可能な新規転写材料を開発した。これにより、歩留まりと高スループットの両立が期待できる。
(2)キャッチ材料(耐熱性・耐薬品性向上)
キャッチ材料には、高速で飛翔してくるチップをキャッチするだけはなく、その後のチップのシリコン基板への直接接合(薬品で洗浄後、プラズマで接合面を活性化して≧200℃で加圧)に耐え、その後、容易にリリースできることが求められる。東レは、長年培ってきた耐熱性高分子の設計技術、および粘着性の制御技術を応用して、これを可能にするキャッチ材を新規に開発した。
(3)プロセス技術(レーザー転写~直接接合までを実証)
開発した材料を用いて、レーザー転写からシリコン基板上への直接接合までの一連のプロセスを東レエンジニアリングと連携して開発し、実証した。現時点における接合後の位置精度は±2μm以内、回転ずれは±1°以内のレベルを確認している。
今後は、チップの動作検証を行い、さらに実デバイスを用いた技術確立に取り組む。加えて、位置精度のさらなる向上に取り組むとともに、他の異種材料のチップやmmオーダーサイズの半導体チップのマストランスファーに展開していく。
東レは、コア技術である「有機合成化学」「高分子化学」「バイオテクノロジー」「ナノテクノロジー」を駆使し、社会を本質的に変える力のある革新的な素材の研究・技術開発を推進することで、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」の具現化に取り組んでいく。
この成果は、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のポスト5G情報通信 システム基盤強化研究開発事業 JPNP 20017 の 助成事業の結果得られたものである。
*1 シリコンフォトニクス:シリコン基板上に光導波路、光スイッチ、光変調器、受光器などの光デバイスを集積する技術。
*2 光半導体:光と電気を相互に変換する半導体デバイス。これには、LED、半導体レーザー、半導体光検出器等が含まれます。これらは、通信、ディスプレイ技術、センサーなどの分野で広く使用されている。
*3 InP(インジウムリン) :インジウムとリンからなるⅢ-Ⅴ族化合物半導体。
*4 Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体:周期表のⅢ族元素とⅤ族元素から構成される化合物半導体高周波デバイス、LED、半導体レーザー等に用いられている。
*5 マストランスファー:一度に多量のチップを基板上に移送して、正確に配置する技術。
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