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2025/3/5
【光格子時計】島津製作所、世界初、小型化に成功した「Aether clock OC 020」発売
島津製作所は、2025年3月5日に18桁精度※1に相当するストロンチウム光格子時計※2「Aether clock OC 020」(イーサクロック、以下、本製品)の受注を開始した。光格子時計は原子時計の一種で、現在の「秒」の定義の基準となっているセシウム原子時計に対して100倍以上の精度を実現する。18桁精度は100億年に1秒の誤差に相当し、光格子時計は次世代の「秒」の定義の有力な候補として注目されている。本製品は2024年11月に、装置体積250Lの小型化に成功した装置で、光格子時計としては世界初の商用機となる。各国の標準機関や大学・研究所などに設置することで、時間基準としてだけではなく様々なフィールド・目的で使用できる。
島津製作所は2017年から東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の香取秀俊教授らのグループと共同研究を開始し、翌年実施した東京スカイツリーでの一般相対性理論の検証実験※3では、光格子時計の制御システムを開発した。その後、搭載レーザーおよび本製品の開発も手掛け、小型化に加えてレーザーの堅牢性の向上、レーザー周波数の自動調整・制御技術の開発を実現した結果、世界初の製品化への道筋を付けられた。従来の光格子時計では、煩雑な調整業務が頻繁に必要でしたが、本製品では作業者の負荷を大幅に低減できる。

小型化で移設が容易になったことにより、様々なフィールドで一般相対性理論を利用した重力ポテンシャル測定に応用できる。例えば、数cm精度のプレート運動や火山活動による地殻の上下変動の監視、数時間から数年かけて起こる地殻変動(標高変化)の精密な観測、超高精度な標高差計測・測位システムの確立など、光格子時計は将来の社会基盤となる可能性を秘めている。
本研究は2018年から、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業「クラウド光格子時計による時空間情報基盤の構築」(JPMJMI18A1)の支援を受けて行われている。
※1 18桁の精度
時計の精度は、ある時間経過した後の時間のずれで評価する。例えば、月差10秒の腕時計なら、(10秒)/(ひと月はおよそ2,600,000秒)から計算される、およそ4×10-6が時計の精度。これを指数の数字を取って、6桁の精度の時計という。18桁の精度は、およそ100億年の間測定するとやっと1秒ずれる精度。このような時計の精度は、時計の振り子の振動数の精度で決まる。
※2 光格子時計
光格子時計は、2001年に東京大学の香取秀俊助教授(当時)によって考案された。「魔法波長」と呼ばれる特別な波長のレーザー光で作った入れ物(光格子)に、原子を1つずつ捕獲し、原子同士の相互作用が起きない状態で原子の振動数を精密に測定する。光格子全体には多数の原子を捕獲でき、原子の振動数を一度に測定して平均を取ることで、短時間で高い精度が得られる。
※3 一般相対性理論
アルベルト・アインシュタインによって築かれた現代物理の基本理論。香取教授らの研究グループは、東京スカイツリーの天望回廊と地上階に光格子時計を設置して「重力の大きい場所では時間の流れが遅くなる」という一般相対性理論を検証した。
製品名:ストロンチウム光格子時計 「Aether clock OC 020」
希望販売価格:5億円(税込) (システム構成により価格は変動する)
販売目標:国内外で3年間で10台
<参考図>

原子(球状)がレーザー光の干渉で作られた微小空間(卵パック状の光格子)の中に捕獲されている。光格子は「魔法波長」と名付けられた特別なレーザー波長で構成されている。


空間的な均一磁場を発生させるためのコイルや黒体輻射シールドを真空槽内に組み込む小型物理パッケージ。(A)は磁気シールドを付けた外観、(B)は磁気シールド内に設置された真空槽。

(フロントカバーを取り外した状態)
コネクター類はフロント部に集約し、メンテナンス性、運用性を向上させている。

各機能は、機能ごとに分割した交換可能なモジュール構成として設計することで、運用時の保守性を高めている。

※体積250Lはラック体積を含まない
開発したストロンチウム光格子時計「Aether clock OC 020」。レーザー冷却された原子を光格子中に捕獲し、低温に冷却した恒温槽の中で時計遷移を高精度に分光する。時計分光用真空槽を含んだ物理パッケージ、光共振器、レーザー/制御システムを搭載している。
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