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2026/5/21
【自己修復】山梨大学と立教大学、光を当てると柔軟性が変わり、傷も消える結晶を開発
山梨大学工学域物質科学系の西村 涼助教、立教大学理学部化学科の森本正和教授、同大学院理学研究科化学専攻学生(研究当時)の福地 純氏らで構成する共同研究グループは、光で可逆的に性質が変わるジアリールエテン※1と呼ばれる分子の単結晶の柔軟性を光でオン・オフ制御し、それと同時に光照射によって、生じたひび割れが修復される自己修復現象※2を見出した。
同研究グループは紫外光・可視光照射により分子構造が変化する物質の単結晶において、結晶面に応じて弾性的・塑性的に変形し、紫外光照射によってその柔軟性が失われ、可視光照射によって再び回復する柔軟結晶であることを明らかにした。さらに、光照射によって局所的な構造変化が誘起され、亀裂が自発的に修復されることを見出した。これらの成果は、光によって結晶の機械特性と損傷回復を同時に制御できることを示し、結晶性材料の長寿命化に向けた新しい材料設計指針を提示するものである。
この研究成果は、2026年4月24日付でアメリカ化学会が発行する「Journal of the American Chemical Society」に掲載された。
<研究成果のポイント>
・柔軟な弾性・塑性変形を示す有機結晶を創製した。
・柔軟―脆化間を光で可逆的にスイッチすることを可能とした。
・光照射で亀裂を修復する自己修復現象を見出した。
研究の背景
有機結晶は高い秩序構造を持つ一方、一般的に脆く、機械的な変形や損傷に弱いという課題がある。近年、フレキシブルエレクトロニクスやセンサー材料への応用を背景に、曲げやねじりなどの変形に耐える柔軟な結晶や、損傷を修復する自己修復材料の研究が進んでいる。しかし、これまで報告されてきた結晶の自己修復は熱・圧力・化学処理などの刺激を必要とするものが多く、光のみで損傷の修復を制御できる分子結晶はほとんど報告されていなかった。光は非接触・高速・空間選択的に刺激を与えられるため、光による機械特性制御が実現すれば、次世代のスマート材料開発に大きく貢献すると期待されている。研究では、光照射によって柔軟性と脆性を切り替え、さらに亀裂を修復できる有機結晶の開発に成功した。
研究の主要成果
研究では、光応答性分子であるジアリールエテンにアルキル鎖※3を導入した分子群[図1]を設計・合成し、柔軟性と光応答性を兼ね備えた単結晶の創製を目指した。

1.力学刺激に対する柔軟変形の実証
得られた結晶のうち2aの結晶は、力を加える方向によって異なる変形挙動を示した[図2]。結晶の広い面に力を加えると弾性変形※4を示し[図2a)]、最大弾性ひずみは ε = 0.48% に達した。力を除くと元の形状に戻る可逆的な曲げ挙動が確認された。一方、狭い面から力を加えると塑性変形※5を示し[図2b)]、変形後も形状を保持した。さらに、ねじれるような変形[図2c)]も可能であり、逆方向のねじる力により元の形状へ戻すことができた。これらの結果から、同一結晶内で弾性曲げ・塑性曲げ・ねじりの複数の変形モードが共存することが明らかとなった。

模式図と顕微鏡写真
単結晶X線構造解析※6の結果、この結晶が「曲がっても壊れにくい」理由は、結晶内部の分子の並び方にあることが分かった[図3]。まず、分子には長いアルキル鎖が結合しており、結晶の中ではこれらが層のように積み重なった「層状構造」を作っている。この層は互いに強く固定されているわけではなく、外から力が加わると層同士がわずかに滑る性質があった。さらに、隣接する分子間に形成される多様な相互作用が三次元ネットワークを構築し、結晶全体の形と長距離秩序を維持する骨組みとして機能している。重要なのは、これらの相互作用が「強すぎない」という点。分子層同士は弱い相互作用でかみ合うように配置されているため、外力が加わると結晶が一気に壊れるのではなく、層が滑ることで力を逃がすことができる。特にアルキル鎖の層は“滑り面”として働き、結晶が曲がったり塑性変形したりする際に、どの方向に変形しやすいか、どこに亀裂が入りやすいかを決める重要な役割を果たしていることが明らかになった。

b) 層滑りの模式図、c) 分子間の相互作用
2.光による柔軟性のオン・オフ切替
紫外光照射により、柔軟だった結晶は容易に破断する脆い状態へと変化した[図4]。さらに可視光照射により再び柔軟性が回復した。すなわち、光照射のみで「柔軟性 ↔ 脆性」を可逆的に切り替えることに成功した。このような光による機械特性のスイッチングは分子結晶では極めて稀である。この変化は、開環体から閉環体への光異性化により分子がより剛直になり、分子間相互作用が弱まることに起因することが分かった。

3.光による亀裂の発生と修復
紫外光照射中、結晶の長軸方向に沿って亀裂が発生し、可視光照射により亀裂が消失する現象を顕微鏡下で直接観察した[図5]。この亀裂の形成と修復は 40回以上繰り返し可能であり、約25回までは完全修復が確認された。以降は徐々に疲労が蓄積し、回復が不完全となった。さらに−50℃でも同様の修復が起こり、また、亀裂が生じた結晶を室温暗所下で3週間放置しても亀裂は自然修復しなかったことから、修復の駆動力は熱ではなく光反応であることが示された。

4.修復メカニズムの解明
研究では、結晶の「亀裂が光で消える」仕組みを解明した。まず、紫外光を当てると分子が閉環体へと変化し、この変化により結晶内部の分子の並びに無理が生じ、結晶格子の中に歪みが少しずつ蓄積していく。歪みが限界を超えると、層と層の境界で耐えきれなくなり、結晶に亀裂が発生する。その際、光に当たった結晶の一部が一時的に融けたような状態になる。次に可視光を照射すると、分子は元の開環体へ戻り、その後すぐに再結晶化が起こり、分子が再び整列し直す。この再配列によって結晶の規則的な構造が回復し、結果として亀裂が閉じて修復される[図6]。この過程は大型放射光施設SPring-8のシンクロトロンX線回折※7でも裏付けられた。亀裂がある状態では回折スポットが2つに分裂して観測されるが、可視光照射後には再び単一のスポットへ戻った。これは、乱れた結晶格子が元の整った配列へ戻ったことを直接示している。さらにナノインデンテーション測定※8では、可視光照射によりヤング率や硬度※9が元に戻ることも確認された。つまり、分子レベルの光反応が結晶全体の硬さや強さといったマクロな機械特性の回復につながっていることが明らかになった。

まとめと今後の展望
今後は、今回の研究で得られた知見を基盤として、光で機械特性を制御できるフレキシブル結晶の設計指針の確立が期待される。特に、分子間相互作用の強さや層構造の設計、光異性化分子の導入といった要素を組み合わせることで、「曲がる・壊れる・修復する」を自在に制御できる結晶材料の開発が可能になると考えられる。また、研究で示された光誘起自己修復機構は、今回用いた分子系に限らず、他の光応答性分子や分子結晶へ展開できる可能性がある。さらに、微細加工技術やデバイス化研究と融合することで、自己修復型フレキシブル電子材料、光駆動アクチュエータ、長寿命センサーなどへの応用が視野に入る。将来的には、損傷しても光を当てるだけで機能が回復するスマート材料の実現につながることが期待される。
※1 ジアリールエテン
光の照射により異性化反応を起こすことで色が可逆的に変化する光応答分子。紫外光で閉環体となり色が付き、可視光で開環体に戻って無色になる。
※2 自己修復現象
材料に生じた傷や亀裂が、自発的、または外部刺激(本研究では光)によって元の状態へ回復する現象。
※3 アルキル鎖
炭素と水素からなる鎖状の分子構造。本研究では、分子同士が滑りやすくなることで結晶に柔軟性を与え、さらに光照射時に結晶が局所的に融けやすくなる役割を担う。
※4 弾性変形
力を加えると形が変わるが、力を取り除くと元の形に完全に戻る変形。
※5 塑性変形
力を取り除いても元の形に戻らず、変形した形がそのまま残る変形。
※6 単結晶X線構造解析
単一の結晶にX線を当て、回折パターンから分子の並び方や結晶構造を原子レベルで調べる手法。
※7 シンクロトロンX線回折
大型加速器で発生させた非常に強力なX線を使い、結晶構造の変化や歪みを高精度で測定する手法。
※8 ナノインデンテーション測定
極小の針を材料表面に押し込み、硬さや弾性をナノスケールで評価する測定方法。
※9 ヤング率・硬度
ヤング率は材料の「変形しにくさ(剛さ)」、硬度は「へこみにくさ(表面の硬さ)」を表す指標。
研究助成
研究を実施するにあたり、文部科学省科学研究費助成事業(JP21K20542、JP22K14668、JP24K17747、JP24H01157、JP25K01849、JP25K00066)、住友財団、徳山科学技術振興財団、天野工業技術研究所による援助を受けた。
論文情報
■タイトル:Photoswitchable Flexible-Brittle Transition with Reversible Cracking and Healing in a Photochromic Crystal
■著 者:西村涼1、福地純2、平井悠一3、大村孝仁4、杉山晴紀5、森本正和1
■所属情報(研究当時):立教大学理学部・未来分子研究センター1、立教大学大学院理学研究科2、物質・材料研究機構電子・光機能材料研究センター3、物質・材料研究機構構造材料研究センター4、総合科学研究機構中性子産業利用推進センター5
DOI : doi.org/10.1021/jacs.6c01187
URL:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/jacs.6c01187
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