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2025/3/3
【高負荷容量大形円すいころ軸受】日本精工、業界初のリコンディショニング対応軸受開発
日本精工(NSK)は、業界で初めて*1、リコンディショニング(修復して再利用可能にすること)に対応した高負荷容量大形円すいころ軸受を開発した。
軸受がリコンディショニングに対応するためには、設備メンテナンス時に修復一再利用を実施しながら長期的に使用できる「長寿命化」と、全部品の詳細点検が可能な「分離構造化」が要求される。本開発品は、NSKの独自技術「NSK Micro-UTTM法を用いた高精度寿命予測」*2により、現行品に対して最大2倍に延長し、長期間の使用を担保する寿命を確保した。また、内輪の縁部分「小つば」を分離できる構造にすることで、軸受全部品の詳細点検を可能にした。本開発品により、軸受のリコンディショニングが可能となり、鉱山設備のメンテナンスコスト削減やCO2排出量削減に貢献する。
今後、鉱山設備メーカーにサンプル品の提供を開始する予定。鉱山設備メーカーを中心として、セメントメーカーなど他業界にも市場拡大を進め、本開発品の売上として2030年に年間20億円を目指す。
*1 業界で初めて:2025年2月時点NSK調べ、調査対象は鉱山設備向け円すいころ軸受。
*2 NSK Micro-UTTM法を用いた高精度寿命予測:鋼材中の非金属介在物の大きさや量(統計データ)から転がり軸受のはくり寿命を高精度に予測する技術(特許出願済み)

1.開発の背景
世界中で都市化が進み、鉄鉱石や石炭などの鉱物資源の生産量が増加する背景で、鉱物資源の採掘時に大量のエネルギーを消費する鉱山現場では、カーボンニュートラルに向けた取り組みが急務となっている。具体的には、設備の稼働率向上、機械の電動化などが実施されており、中でも、設備構成部品の再利用は、省エネ・CO2削減にあたり、重要性が高い取り組みである。
鉱山現場で使用されているダンプトラックや粉砕機は24時間稼働し、過酷な環境(低回転・重荷重・振動など)で使用されているため、一般的には、長寿命・高信頼性を特長とする「大形円すいころ軸受」が使用される。
ダンプトラックや粉砕機などの、鉱山設備のメンテナンスでは、各部品(シャフト、ギアなど)は既にリコンディショニングに対応している。しかし一方で、軸受については、現行品はリコンディショニング対応しておらず、メンテナンス時に全数廃棄・交換されている。そのため、市場では、リコンディショニングに対応した軸受のニーズが高まっている。
リコンディショニングに対応するにあたり、軸受には、「長寿命化」と「分離構造化」が要求される。鉱山設備は数十年もの寿命があるため、各部品を再利用する場合は、数年ごとの設備メンテナンス時に点検を実施し、必要に応じて修復しながら長期間使用する必要がある。もし仮に、現行品の軸受を設備メンテナンス時に修復したとしても、軸受の負荷容量が低いため、設備寿命に対して軸受寿命が不足し、すぐに廃棄・交換が必要となってしまう。そのため、軸受の長期使用を担保する「長寿命化」が不可欠。また、リコンディショニングではメンテナンス現場で簡単に内部の詳細点検が実施できる必要があるが、現行品は非分離構造で内部の詳細点検が困難なため、「分離構造化」が求められている。
2.開発品の特長
NSK独自技術により、特長①(「長寿命化(高負荷容量化)」により長期使用が可能)と、特長②(「分離構造化」により全部品の詳細点検が可能)を実現し、業界で初めて、設備メンテナンス時のリコンディショニングを可能にした。
特長②の「分離構造化」された仕様では、鉱山設備など振動が発生する使用環境における信頼性を向上する必要がある。そこでNSK独自技術により、特長③(「脱落防止構造」により振動用途における不具合を防止)を実現し、信頼性を向上した。

*3、*4 特許申請中
*5 トライボロジー:運動しながら接する物質の間で起こる摩擦・摩耗を潤滑や材料表面で制御する技術
①「長寿命化(高負荷容量化)」により長期使用が可能
「NSK Micro-UTTM法を用いた高精度寿命予測」の適用により、高負荷容量設計を可能に市、軸受寿命を最大2倍に延長した。

*6 基本動定格荷重C:転がり軸受の負荷能力で、外輪静止状態にて内輪を100万回転できる方向と大きさが変化しない荷重を表す
*7 定格疲れ寿命L10:同一名番軸受を同一条件で個々に回転させた時、その内の90%の軸受が転がり疲れによるフレーキング(はくり)を起こさず。回転できる総回転数
②「分離構造化」により全部品の詳細点検が可能
円すいころ軸受では、「小つば」「大つば」と呼ばれる内輪の縁部分でころを案内しており、現行品では、外輪以外の部品の分離が困難な構造であった。本開発品は、「小つば」を内輪から切り離してボルトねじで締結。小つばを取り外し可能な構造にすることにより、ころ・保持器と内輪の分離を可能にし、全部品の詳細点検が可能な仕様を実現した。

③「脱落防止構造」により振動用途における不具合を防止
分離型小つばの、締結ボルトのゆるみや脱落を防止する「脱落防止構造(かしめ構造)」により鉱山現場など振動が作用する使用環境での信頼性を向上した。

3.製品の効果
本開発品により、鉱山設備のメンテナンスコスト削減やCO2排出量削減に貢献する。
1)メンテナンスコスト削減の例(使用期間:軸受使用開始~2回目の設備メンテナンス(廃棄)までの場合)
軸受を修復して再利用できるため、設備メンテナンス時に必要だった、軸受交換が削減できる。
・ダンプトラック1台当たりの軸受交換数: 8個→4個
・粉砕機1機当たりの軸受交換数 :12個→6個
2)CO2排出量削減の例(使用期間:軸受使用開始~2回目の設備メンテナンス(廃棄)までの場合)
ダンプトラック(ホイール)に本開発品を使用した場合、CO2排出量3102kg-CO2*8の削減が可能。
*8 CFP(カーボンフットプリント)試算結果 NSK調べ
<背景情報>オーストラリア鉱山のダンプトラック(ホイール)に。本開発品を使用した場合のCO2排出量削減効果を試算。
使用期問は6万時間。算定対象は原材料調達~廃棄まで、算定報告書は公開準備中。
また、NSKは、PLM*9モデルの確立に取り組んでおり、本開発品は、PLMモデルのリコンディショニングを実現する主要製品として位置付けられている。
*9 PLM:Product Lifecycle Managementの略。製品のライフサイクルを管理すること。NSKでは、製品ライフサイクル全体でのサービス提供体制の強化を目指し、製品販売後の設備メンテナンスや補修まで、PLM戦略の拡大に取り組んでいる。

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