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2026/5/21

【ATCM48・CEP28】南極・南大洋連合、科学界の深刻な警告と遅れる政策対応のギャップ解消を要請

Credit: John Weller

 第48回南極条約協議国会議(ATCM48)および第28回環境保護委員会(CEP28)が2026年5月21日、広島で閉幕した。
 今回の会議では、平和、科学、教育、そして「環境保護に関する南極条約議定書(南極環境保護議定書)」が35周年を迎えることに大きな焦点が当てられた。一方で、南極・南大洋連合(ASOC)は、科学界からの深刻な警告が十分な政策行動につながっていない現状に警鐘を鳴らしている。
 ASOC事務局長のクレア・クリスチャン氏は、「南極で進行している気候と生物多様性の急激な変化に比べ、外交的意思決定のスピードは危険なほど遅いままです」と述べている。

平和と科学に焦点を当てた歴史的な会議
 今回の会議が広島で開催されたことは、「平和と科学に捧げられた自然保護区」としての南極の価値を再確認するうえで、力強い後押しとなった。こうした価値に対する日本の貢献は、会議全体に協調的な雰囲気をもたらした。
 アジェンダ・アンタルティカ(Agenda Antartica)アジア太平洋プログラム・ディレクターのパトリシア・カヴァルカンティ氏は、次のように述べている。
 「南極条約は、20世紀半ばに生まれた『外交の奇跡』でした。今、締約国には、その遺産にふさわしい21世紀の決意を示す歴史的な機会があります。その核心にあるのは、私たちすべてをつなぐ健全な環境です」

規制が追いていない南極観光の拡大
 ASOCは、南極観光を規制する枠組みの構築に向けた交渉に一定の進展があったことを歓迎する。一方で、締約国に対し、急増する訪問者数に対応するため、法的拘束力のあるルールを策定するよう、引き続き強く求めている。
 法的に執行可能な枠組みがなければ、商業観光の拡大により、南極の原生地域と脆弱な生態系に、取り返しのつかない圧力がかかる恐れがある。
 ASOCシニア・アドバイザーのリカルド・ロウラ氏は次のように述べている。
 「南極大陸全体で商業観光が急速に拡大しているなか、その大部分を自主的なガイドラインに頼り続けることはできません。枠組みの構築は第一歩ですが、観光の拡大が環境を保護する私たちの能力を上回る前に、ATCMはこれらの議論を、義務的かつ法的拘束力のある規則へと早急に発展させなければなりません。これには、議定書で認められている南極の本質的価値の保護も含まれます」

気候危機に対する国際的な行動の要請
 ASOCは、平和と環境保護は密接な関係にあると強調した。崩壊しつつある南極氷床のような生命を支えるシステムを守ることは、地球規模の紛争を防ぐ上でも根本的に重要。
 こうした危機感は広く共有されている。ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)およびギャラップ世界リスク世論調査(Gallup World Risk Poll)による世界規模の調査では、人類の約3分の2にあたる67%が、気候危機を地球の未来に対する重大な脅威と捉えていることが示されている。
 国際雪氷圏気候イニシアティブ(International Cryosphere Climate Initiative、ICCI)ディレクターのパム・ピアソン氏は、次のように述べています。
 「気候危機は、私たちの時代を決定づける課題です。ATCMは、南極を孤立した一地域の問題として扱うべきではありません。このフォーラムは、その外交的影響力をもって、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)と世界の指導者に対して、化石燃料由来の排出を早急に削減しなければ、南極氷床の融解によって世界が極めて深刻な脅威に直面することになるというメッセージを発信すべきです」

科学界の警鐘と遅れる政策対応:コウテイペンギンの特別保護種指定は見送り
 今回の会議では、コウテイペンギンを特別保護種(Specially Protected Species)に指定する提案が審議された。これは、コウテイペンギンが今年初めに国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「絶滅危惧種(Endangered)」に引き上げられたことを受けたもの。
 南極研究科学委員会(SCAR)をはじめとする科学機関は、南極のシステム全体で「急激かつ加速的な」変化が起きていると報告している。特に、コウテイペンギンにとって重要な生息環境である海氷の「例外的な」減少が強調された。
 ATCMでは、締約国がコウテイペンギンの保護を優先事項として再確認するなど、一定の前進はあったが、今回の会議では、コウテイペンギンを特別保護種として正式に指定するには至らなかった。
 この提案に反対したのは、ごく少数の締約国にとどまった。仮に提案が採択されていれば、「従来通り」の排出を想定したシナリオのもとで、生息環境の急速な喪失と2100年までの機能的絶滅のリスクに直面するコウテイペンギンを守るため、連携した保全措置の枠組みが始動するはずであった。
 WWF極地・海洋担当チーフ・アドバイザーのロッド・ダウニー氏は、次のように述べている。
 「警告のサインは赤く点滅しているにもかかわらず、重要な保護措置は未だに一部の締約国によって阻まれています。絶滅の危機にあるコウテイペンギンは、気候危機と自然危機がいかに密接に結びついているかを示す、非常に明確な例です。私たちは、来年、大韓民国で開催されるATCMにおいて、この氷上の象徴を守るための意味ある行動が実現することを求めていかなければなりません」
 ASOCとそのパートナー団体は、東京での公開パネルディスカッション、写真展「南極から広島へ」、ユース・アートコンテストなど、注目度の高い一連のイベントを通じて、極地外交を、市民により身近で開かれたものにするための取り組みを行った。
 これらの取り組みは、ATCMによる公式の「アウトリーチ・教育ワークショップ」と時期を同じくして実施された。同ワークショップは10年に一度しか開催されない節目のイベント。
 国際環境NGO FoE Japan代表理事のランダル・ヘルテン氏は、「市民社会は、南極条約体制における重要な利害関係者として位置づけられるべきです」と述べている。
 ASOCは、極地外交が、その影響を受ける世界の人々にとって適切に可視化され、アクセスしやすいものとなるよう、南極条約の体制および締約国に対し、透明性の向上を求めている。
<注>
南極・南大洋連合(ASOC)は、拡大する人間活動から南極および南大洋の生態系の健全性を守るために活動する組織。NGOコミュニティの統一された声を届けることにより、南極および南大洋の固有で脆弱な生態系を保護することを使命としている。ASOCは、第48回南極条約協議国会議にオブザーバーとして参加している。
•人類の約3分の2にあたる67%が気候変動を重大な脅威と捉えているという統計は、ピュー・リサーチ・センターが複数国で実施した調査の世界中央値に基づくものであるこうした国際的な認識は、ギャラップ世界リスク世論調査のデータにも反映されており、同調査においても、世界人口の67 %が気候変動を深刻な脅威と認識していることが示されている。

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