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2023/12/26

【CNT】日本ゼオン/名古屋大学/フレンドマイクローブ、微生物を用いた世界初のカーボンナノチューブの分解方法開発

 日本ゼオンは、名古屋大学大学院工学研究科の堀 克敏教授の研究グループ、ならびに名古屋大学発ベンチャーフレンドのマイクローブとの共同研究により、カーボンナノチューブ(CNT)を微生物により効率的に分解する世界で初となる新手法を開発した。これまで、炭素から成る無機物のCNTは環境中で生分解されないと考えられてきたが、今回の結果はその考えを覆すものとなるとともに、CNTの環境リスク軽減に活路が見出されたことで産業利用がさらに加速することが期待される。
 日本ゼオンは、「長尺」「大比表面積」「高純度」という特長を併せ持つ単層カーボンナノチューブ(SWCNT、製品名「ZEONANO(R)」)を開発し、2016年から徳山工場(山口県周南市)において、商業生産を開始している。
 3者はCNT、特にSWCNTの生物学的分解に焦点を当て、2019年より共同で研究開発を進めてきた。これまで、フェントン反応*1を用いたCNT分解の報告はされていたが、今回はその知見を活かし、Shewanella属*2の細菌を利用したSWCNTの効率的な生物学的分解法を開発した。Shewanella属の細菌は、無酸素条件下で鉄(III)を鉄(II)に還元し、有酸素条件下で酸素を過酸化水素に還元することでフェントン反応を効率的に誘導する能力がある。今回は、これをCNTの分解に応用し、90日間で56.3%を分解することが確認された。この結果は、Shewanella属によるフェントン反応が、幅広い条件下でのCNT分解に応用可能であることを示唆しており、CNTの新しい処理方法として期待される。
 なお、本研究成果は、2023年11月30日付国際学術雑誌「Frontiers in Microbiology」にオンライン掲載*3された。
 今回の共同研究における3者の役割は次の通り。
日本ゼオン:単層カーボンナノチューブの材料提供ならびに、材料における知見提供および、化学分解ノウハウ、分解評価法ノウハウの共有
名古屋大学:微生物を使った新しい産業技術の開発と社会実装
フレンドマイクローブ:カーボンナノチューブ管理策の実証
 CNTの分解は製造から廃棄までの全ライフサイクルにわたる管理策に直結することから、日本ゼオンはこれまで関係各署に対して、分解の科学的根拠に基づいたCNT管理策の提案を行っており、CNTが管理可能な材料であるという知見は、大きな関心を集めている。日本ゼオンはこれからも「持続可能な地球」と「安心で快適な人々のくらし」の実現に貢献すべく、SWCNTの事業活動を推進していく。
*1 フェントン反応:過酸化水素と鉄イオンを反応させることにより、強力な酸化剤であるヒドロキシルラジカルを生成する化学反応。フェントン反応は、有機物の酸化分解や有害物質の無害化に使用され、環境工学や廃水処理などで重要な役割を果たす。
*2 Shewanella属:シュエネラ属とも呼ばれ、主に水中環境に存在する細菌の一群。酸素不足の環境で金属イオンを電子受容体として利用することができる特長を持ち、環境汚染のバイオレメディエーションやバイオエネルギーの生成などに応用できる可能性を持つ。
*3 https://doi.org/10.3389/fmicb.2023.1298323
   Long-term continuous degradation of carbon nanotubes by a bacteria-driven Fenton reaction 
Seira Takahashi, Katsutoshi Hori


研究背景と内容
 
本研究は、カーボンナノチューブ(CNTs)、特に単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)の生物学的分解に焦点を当てている。CNTsはその優れた物理的特性により広範な応用があるが、人間の健康や生態系に対する潜在的なリスクが懸念されている。例えば、CNTsは針状の構造を持ち、中皮腫や肺がんなどの健康問題を引き起こす可能性があり、植物、動物、微生物に対する毒性も報告されている。 これまでの研究では、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などのヘム酵素を用いたCNTsの分解が報告されているが、これらの分解過程は実際にはフェントン反応によるものであり、酵素反応によるものではないことを、今回の発表者らは既に論文で発表している。今回は、その知見をもとに、新しいCNTsのバイオ分解技術の開発に成功した。フェントン反応は、過酸化水素の分解を触媒する鉄(II)によって生じる高反応性のヒドロキシルラジカルによって、有機物を迅速かつ非選択的に酸化する。
 Shewanella属の細菌は、無酸素条件下で鉄(III)を鉄(II)に還元し、有酸素条件下で酸素を過酸化水素に還元することで、フェントン反応を効率的に誘導する能力がある。これは、CNTsの分解に応用できる可能性があるが、Shewanella属がCNTsに耐性があるか、またフェントン反応がCNTsを分解するのに十分な期間続くかについては全く知見はなかった。 この研究では、30 µg/mLのO-SWCNTsと10 mMのFe(III)クエン酸塩を含む条件下で21時間の無酸素と3時間の有酸素のサイクルを行い、90日間でO-SWCNTsの56.3%を分解した。この結果は、Shewanella属によるフェントン反応が、幅広い条件下でのCNTs分解に応用可能であることを示唆しており、CNTsの廃棄物処理や環境バイオレメディエーションにおける新たな方法の開発に寄与すると考えられる。

成果の意義
 
CNTsは産業界で広く利用されているが、健康と環境への懸念が指摘されている。この研究により、環境中に広く存在する細菌を利用して、CNTsを安全かつ持続可能な方法で分解する新たな可能性が開かれた。これは、廃棄物処理技術の改善、環境汚染の軽減、そして長期的には人間と生態系の健康へのリスクを減少させる道を提供する。ナノテクノロジーの安全な利用と持続可能な発展にとって、この研究は重要なステップとなるであろう。

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