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2025/2/28
【分解菌】慶応大、難分解性ポリプロピレンの分解菌を鎌倉の土壌から発見
慶應義塾大学理工学部の國分健士郎氏(生命情報学科4年)、慶應義塾先端科学技術研究センター研究員の黄 穎氏、同大学理工学部教授の宮本憲二氏の研究グループは、添加剤を含まないポリプロピレン( PP)を分解する微生物の取得に成功した。さらにこの微生物が、PP と全く構造が異なるポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)やポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックも分解する能力を持つことを突き止めた。
この成果は、微生物によるプラスチック混合物の分解処理を実現する上で重要な一歩となる。さらに、環境に排出されたプラスチックが、自然界でどの様に分解されているかを知る上で科学的な大きな発見と考えられる。
同成果は、2025 年 3 月 8 日の日本農芸化学会で発表される。
研究の背景
近年、環境へのプラスチックの排出と蓄積が大きな社会問題となっている。特に、ポリオレフィン系プラスチックは難分解性であり、特に PP は自然界での微生物分解が非常に困難である。PP 分解菌に関する報告はあったが、いずれも市販品の様々な添加物を含む PPを用いており、本当に PP を食べて分解しているのが不確かなものであった。そこで、同研究では探索実験に添加物を含まない PP フィルムを用いることで、真の PP 分解菌の単離を試みた。
研究の内容・成果
2022 年 10~12 月鎌倉市立西鎌倉小学校において、JST 共創の場形成支援プログラム
(COI-NEXT)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の一環として、「地球に還るストロープロジェクト」を実施、給食で使用するプラスチックストローを P-Life添加 PP ストローに置き換え、微生物の力で分解して土に還す実証実験を行った。小学校での実験が終了した後も、1 年半にわたり土壌へのプラスチックストローや水分の補給を行い、微生物の培養実験を続けた。同研究グループは、この土壌には P-Life 添加 PP ストローだけなく、強い PP 分解菌も存在するのではないかと予測して、PP 分解菌の探索を実施した。
また、真の PP 分解菌の発見確率を上げるために、添加剤を含まない PP フィルムを実験に用いた。その結果、約 10 株の候補株を単離することに成功した。次に、これら候補株を用いて、無添加 PP フィルムの分解能を評価した結果、数株において明確な分解痕を確認した。特に PP9 株は、1 週間で 0.11%の PP フィルムを分解した。さらに、培養時に酵素の誘導剤としてヘキサデカンを少量加えることで、分解率は0.79%に向上した。

解率が向上する
さらに、PP と全く異なる構造である PE、PU や PET などのプラスチックでも同様に検証したところ、PP9 株がこれらのプラスチックを全て分解することを突き止めた。従来、あるプラスチックの分解菌は、他の種類のプラスチックは分解できないと言われていたが、今回の発見はそれを覆す最初の例となった。自然界においては、複数のプラスチックが混じって存在することが一般的であり、この微生物はその様な環境に適応して進化したのではないかと考えている。

今後の展開
添加物を含まない PP の分解菌を発見した。さらに、発見した微生物は PP と全く異なるプラスチック(PE、PU や PET)を分解することを突き止め、従来の常識を覆すものとなった。これらの分解菌のゲノム解析を行って分解メカニズムを明らかとすることで、どのように分解能力を獲得したのかを解明することができると期待される。さらに、様々なプラスチックが混在したゴミの処理に使用を目指して研究を進めていく。
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