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2025/9/1

【アップサイクル】日立、イトーキ、トクヤマ、日立、太陽光パネル板ガラスをそのままオフィス家具へ

 日立製作所(日立)、イトーキトクヤマは、資源循環型社会の実現をめざして、廃棄が課題となる太陽光パネルから回収した板ガラスの家具部材へのアップサイクル*1を実証した。具体的には、トクヤマの低温熱分解法で高品質な板ガラスを回収し、日立の非破壊強度推定技術により「亀裂」*2や「アルカリ溶出」*3などの劣化の影響を評価することで、板ガラスをそのまま再利用することを可能にした。さらに、イトーキは、回収した板ガラスの個性を活かした会議ブースを試作し、再生材の新たな価値を提案している。これにより、オフィスや公共空間において、環境配慮と美しさを両立したサステナブルな空間づくりが可能となり、利用者は社会貢献とデザイン性を併せ持つ新たな価値体験を得られる。同取り組みは、太陽光パネルから回収した板ガラスを粉砕せずにオフィス家具に再利用する初めての事例であり*4、廃棄物削減とともに、新規にガラスを製造する場合と比較してCO₂排出量最大50%の削減が見込まれ、持続可能な社会インフラの構築を後押しする。今後、同取り組みの実用化に向けて、オフィス家具のほか建材分野など多様な領域のパートナーと連携し、サプライチェーンの構築や事業モデルの検討、さらなる品質検証と評価技術の標準化を進め、脱炭素および資源循環型社会の実現を加速する。

*1 アップサイクル: 本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。「創造的再利用」とも呼ばれる

*2 亀裂: 太陽光パネルへの飛来物により発生するガラス表面の微小な割れやへこみ

*3 アルカリ溶出: 屋外使用により水やアルカリ性の溶液に長期間さらされると、ガラス表面のアルカリ成分(ナトリウムなど)が溶け出す現象

*4 日立、イトーキ、トクヤマ調べ(2025年8月時点)

太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(外装)

背景および課題 

 2030年代以降、寿命を迎えた太陽光パネルの大量廃棄が増加し、国内では最大で年間50万トン程度まで達する見込みである。こうした状況を背景に、欧州連合(EU)をはじめとする世界各国でリサイクル義務化や厳格な廃棄規制が進められている。太陽光パネルに使用される板ガラスは重量の約6割を占めており、太陽光パネルのリサイクル率の向上には板ガラスの高付加価値な再利用が重要となるが、現状では、粉砕して路盤材*5やガラス原料として活用する方法が検討されている。一方、板ガラスをそのままアップサイクルできれば新たな価値創出が期待されるが、長期間の屋外使用による「亀裂」や「アルカリ溶出」などの品質劣化を評価せずに再利用することは安全性や耐久性の面で課題となっていた。

 こうした課題に対応するため、日立、イトーキ、トクヤマの3社は2024年9月から共同研究を開始し、太陽光パネルから回収した板ガラスをそのまま家具部材として再利用する新たな取り組みに着手した。

*5 路盤材: 道路の舗装構造において、表層や基層の下に敷かれる材料。道路の強度や耐久性、安定性を高める役割を担う。

 

 課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長 

 今回、3社が太陽光パネルから回収した板ガラスを安全かつ高品質なまま再利用するために開発した技術およびソリューションの特長は以下の通り。

 

1. 高品質板ガラスを効率的に回収する低温熱分解法

 トクヤマは、独自の低温熱分解技術を用いて、使用済み太陽光パネルを構成する板ガラスやセル、インターコネクタを高品質に回収できる技術をNEDOとの共同研究により確立した*6。熱分解条件と処理工程を最適化することで、主な部材の原料化(水平リサイクル)の取り組みに成功している。さらに板ガラスをそのまま製品化するための課題を抽出し、品質管理や処理工程に反映することで、より高品質な部材供給を可能にする。

*6  太陽電池モジュールの低温熱分解法によるリサイクル技術開発(2019年7月~2025年3月)

 

2. 劣化要因を考慮した非破壊強度推定技術

 日立は、ガラスの劣化要因である「亀裂」と「アルカリ溶出」の強度への影響を複合的に評価し、劣化要因を判別する画像処理と組み合わせることで、回収ガラスの強度を推定する技術を開発した。これにより、回収ガラスの安全性と耐久性を確保したアップサイクルを実現する。さらに日立は、再生材マーケットプレイスの構築*7、アップサイクル技術の開発*8、日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ*9におけるグランドデザインの策定など、多様な取り組みを推進している。これらの活動と連携し、本技術をOne Hitachiで社会実装し、再生材マーケットプレイスにおけるラインナップの拡大と、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現をめざす。

 

*7 日立と積水化学が、再生材の活用促進を支援する「再生材マーケットプレイスシステム」を用いた実証を完了:2024年6月5日

*8 使用済み製品のアップサイクルを実現するスマート再生ソリューション : 日立評

*9 日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ

 

3. 再生ガラスの個性を活かした会議ブースの試作

 イトーキは、回収ガラスの微細な凹凸を残し視線を遮る意匠材として活用したWeb会議ブースを試作した。板厚が限定されサイズも不均一な回収ガラスを効率的に再利用するため、合わせガラス化で安全面へ配慮するとともに、ガラス面とスチール面を混合させて強度保持できるパネル構造を再設計した。再生材の新たな価値を提案することで、SDGs*10への意識向上にも寄与する。試作品の中では天板素材やソファ張地にイトーキが取り組んできたアップサイクル素材も組み合わせている。

太陽光パネルから回収した板ガラスを再利用した会議ブースの試作品(内装)

*10 SDGs: 持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals)

 確認した効果 

 回収したガラスの強度を推定し、合わせガラスに仕上げることで、オフィス家具部材として使用可能であることを確認した。また、新規にガラスを製造する場合と比較し、CO₂排出量を最大50%削減できると推算された*11。

*11 新規に合わせガラスを製造する場合と、回収ガラスを使用して合わせガラスを製造する場合の比較からCO2排出量の削減効果を算出。新規製造の場合は、原料採掘、ガラス製造、中間膜製造、合わせ加工および、それらに伴う輸送から構成され、同取り組みの場合はガラス分離、中間膜製造、合わせ加工、およびそれらに伴う輸送から構成される。共通の工程に伴う輸送距離は同等として算出。同取り組みでは、CO2排出量が多い、原料採掘およびガラス製造に関わる部分が省略されるため、約50%のCO2削減効果が試算されている。CO2排出に関わる排出係数はIDEA環境省排出係数一覧等を用いいる。

 今後の展望 

 今後、3社は、サステナブルな製品の開発を求める多くの顧客のニーズに応えるため、オフィス家具のほか建材分野など多様な領域のパートナーと連携し、サプライチェーンの構築や事業モデルの検討、さらなる品質検証と評価技術の標準化を進める。業界全体での協創や標準化を呼びかけ、持続可能な脱炭素および資源循環型社会の実現とリサイクルの社会実装を加速する。

 なお、同成果の一部は2025年9月2日から4日に北海道大学で開催される2025年度資源・素材関係学協会合同秋季大会で発表予定。

 

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