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2024/1/11

【エネルギー】Helical Fusion、東北大学金属材料研究所と共同で核融合炉用の新規金属材料開発

 世界初の定常核融合炉実現を目指すヘリカル型核融合炉の開発を目指すHelical Fusionは、材料研究で世界的に研究をリードしている東北大学金属材料研究所 笠田研究室と実施した核融合の新規炉材料に関する共同研究の成果がNuclear Materials and Energyに誌面掲載(2024年3月発刊予定)されることを発表した。
 今回の共同研究により、商用核融合炉での利用が期待できる新規の金属材料を開発することに成功した。これにより、より環境に優しく劣化しにくい材料を用いた核融合炉の開発が期待されます。
 太陽と同じ原理で水素の原子核同士の衝突させる核融合発電は、燃料1グラムで石油約8トン分の膨大なエネルギーを発生し、CO2を排出しない新たなクリーンエネルギーとして、また、半導体や自動車のような規模感の産業創出に繋がる可能性が期待されている。そのため、欧米や中国、韓国、インドなどで投資と開発競争が進んでいる。AIの普及によるサーバー増設や、EVをはじめとする電動モビリティの社会的な増加など、拡大するエネルギー需要に応えるために、Helical Fusionは、安定的に大量の電力を提供できる独自のヘリカル方式による世界初の定常核融合炉の開発を目指している。
 核融合反応では、水素を超高温にすることで、水素原子を構成する原子核(陽子と中性子)と電子をバラバラにしたプラズマにする。その中心温度は1億℃以上となり、磁場(磁力線)に巻きついて運動する性質を持つ。
 また、核融合反応では中性子が発生する。核融合発電では、中性子が持つエネルギーを取り出して発電を行うが、その過程で中性子が炉の頑健性を担保する構造物となる鉄鋼材料を放射化し、放射性廃棄物が発生する。安全性をより高めるために、より短い期間で放射能が減衰する低放射化鉄鋼材料の研究が世界的に進められている。  他方、低放射化鉄鋼材料の多くは磁性(磁気を帯びた物体が示す性質)を持ち、閉じ込め磁場を乱して核融合反応を起こすプラズマの性能に影響する可能性があるため、かねてから「非磁性」かつ「放射化しにくい」性質の材料開発が課題であった。  東北大学金属材料研究所との共同研究では、非磁性でプラズマを閉じ込める磁場に影響を与えず、中性子の照射による長寿命放射性廃棄物の発生を抑えられ、さらに高温での酸化による材料劣化を抑えることのできる画期的な次世代材料の開発に取り組んできた。  本共同研究の結果、「高マンガンアルミナ形成オーステナイト鋼」に微量のSi(ケイ素)を添加することで、上記の性質を合わせもつ新規材料の開発に成功した。これは、一般的なステンレス鋼から長寿命放射性物質となるニッケルを除き、その代わりに短時間で放射能が減衰するマンガンを用いて、さらに酸化を防ぐなど防食性能の高いアルミナ層を自己形成させるためのアルミを添加した材料。微量のSiが高密度なアルミナ膜の形成に重要な役割を果たしている。
 本材料はHelical Fusionが開発するヘリカル型核融合炉だけでなく、中性子を扱う核融合技術全般に適用可能なもので、商用核融合炉実現にとって極めて重要な要素となると考えられる。
 本研究成果は誌面掲載に先駆けて昨年末に Nuclear Materials and Energy (Science Direct) にオンライン掲載されており、2024年3月に発刊される誌面に掲載予定。
 Helical Fusionは、材料分野でも最先端の研究開発を進め、世界的にもコスト競争力のある核融合炉の実証を目指す。
*放射化:元々は放射能(アルファ線、ベータ線、ガンマ線などの放射線を出す能力)のない同位体が、他の放射性物質などから発生する放射線を受けることにより、放射性同位体になること。
**アルミナ:酸化アルミニウム。汎用性の高いファインセラミック素材の1つ。電気絶縁性が高く、耐摩耗性、科学的安定性があり、比較的安価とされる。
***オーステナイト鋼:クロムCrとニッケルNiを主成分とし、常温状態でオーステナイトと呼ばれる金属組織を形成するステンレス鋼の一種。他のステンレス鋼と比較し耐食性・溶接性に優れる。
■Helical Fusionについて
 Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は磁場閉じ込め方式で核融合(フュージョンエネルギー)の社会実装を目指す日本発のスタートアップ。次世代のエネルギー源として、世界では60年以上かけて様々な核融合方式が開発されている。日本では、DNAに似た二重らせん構造の超伝導ヘリカルコイルを用いて高温のプラズマを安定に閉じ込めるヘリカル方式が生まれ、大きく育まれてきた。同社はこのヘリカル方式にさらなる独自の最先端技術を取り入れた、世界初の定常核融合炉の開発を目指す。
 Helical Fusion:田口昂哉(代表取締役)からのコメント
 本研究での成果は、核融合炉の商用化を実現する上で非常に大きな発見だと考えられます。Helical Fusionだけではなく東北大学金属材料研究所様の豊富な知見があったからこその成果となりました。ご尽力頂いた笠田研究室の皆様に御礼を申し上げるとともに、Helical Fusionとしては本技術の商用化に一層努めて参ります。
 東北大学金属材料研究所:笠田竜太(教授)からのコメント
 今回の材料開発では、高マンガンオーステナイト鋼の弱点として指摘されていた耐酸化性・耐食性の向上に貢献できる緻密なアルミナ層の自己形成を促進する微量添加元素としてSiの影響を明らかにしました。当研究室で培ったメカニカルアロイングによる酸化物分散強化の技術も併せて、核融合炉に求められる高温強度や耐照射性に優れた構造材料としての開発を進めていきます。
■核融合について
 原子力発電では燃料にウランやプルトニウムを用い、核分裂反応によりエネルギーを発生させます。この際、処理に約10万年が必要な高濃度の放射性廃棄物質が生まれる。また、分裂反応は連鎖反応であり制御が難しい特徴がある。
 一方、核融合反応では、燃料として重水素や三重水素といった水素の同位体を用いる。低レベルの放射性廃棄物は発生するが、半減期が短く約100年程度で一般物に戻るとされている。また、核融合反応を起こすために必要なプラズマ温度・密度・閉じ込め時間といった条件自体が難しく、条件から外れると自動的に反応が止まり連鎖反応が起こらないことから、安全性が高いと考えられている。

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