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2024/6/21

【コラーゲンマイクロファイバー】新田ゼラチンと北海道大学、高速で紡糸する世界初の技術開発。人工腱など様々な医療機器開発へ展開

 ゼラチン・コラーゲンペプチドの製造販売を行う新田ゼラチンは、北海道大学との共同研究*1により、生体組織の骨組みとなっているコラーゲン繊維と類似したナノ構造を持つコラーゲンマイクロファイバー(MF)を高速で紡糸する技術を世界に先駆けて開発し、コラーゲンMFの束が人工腱としての利用に十分な硬度と強度を有していることを明らかにした。
*1 新田ゼラチンは、北海道大学に産業創出講座”バイオマテリアル構造設計部門”を設立(2022年4月~2024年3月)し、北海道大学病院スポーツ医学診療センターの近藤英司教授、および同講座に招聘した柚木俊二特任教授と共同研究を実施した。

背景
 生体内において、コラーゲンは繊維となって主に組織・器官を支える骨格として機能している(構造タンパク質と呼ばれる)。新田ゼラチンは、コラーゲンを医療機器の基材として活用することで、医療の課題解決と貢献に繋がると考え、コラーゲン繊維と類似したナノ構造を持つコラーゲンMFの開発や、その紡糸技術に関する研究を続けてきた。

本技術の概要
 コラーゲンMFの紡糸技術として長年研究されてきた“湿式紡糸”*2に、材料が固まる間に引っ張って伸ばす(延伸する)樹脂成型のような工程を組み込んだ(図1)。従来の紡糸技術では凝固過程のコラーゲンを延伸しようとすると切れてしまうが、新田ゼラチンが独自に開発した延伸可能なコラーゲン水溶液(①)を、細い流路からエタノール浴へと押し出し(②)、これにより形成される紐状コラーゲンゲルを乾燥してMF化(③)する工程で、押出速度よりも高速で巻き取ることで(④)、エタノール浴内での延伸を実現した。この方法により、光沢のある乾燥コラーゲンMFが生成される(図2)。
*2 紡糸原液をノズルに通して凝固液中に送り、繊維として巻き取る紡糸法。再生繊維や、一部の合成繊維の紡糸法として用いられる。

図1
図2 乾燥コラーゲンMFの拡大写真

本技術の効果
⑴紡糸の高速化
 従来の紡糸技術では、数十m/時の紡糸速度が上限であり、更に凝固液に含まれる薬剤を除去する必要があるため、工業的な連続生産には向いていなかった。一方、本技術においては、延伸倍率*3を高くすると紡糸速度も向上し、実延伸倍率*4が4.4倍になると200m/時に達す。
*3 繊維を引っ張る度合いのこと。長さ1の線維を2まで引っ張ることが、延伸倍率2と定義される。
*4 未延伸時と比べた断面積の減少から算出した、真の延伸倍率。
⑵コラーゲンMFの微細化
 未延伸時に47μmであったコラーゲンMF直径は、実延伸倍率が4.4倍になると22μmまで縮小し、生体内コラーゲン繊維(直径10~20μm)に近似した細さになる(図3)。

図3 コラーゲンMF横断面の電子顕微鏡写真
(計算直径※=20~26μm) ※: 線維断面形状を真円と仮定した直径

⑶コラーゲンMF内のコラーゲン線維の整列
 延伸によって整列したコラーゲン分子がそのまま線維化(ナノフィブリル化)するため、表層から内部までコラーゲン線維が一方向に整列する(図4)。このような整列は生体内繊維に特徴的なナノ構造であり、従来の湿式紡糸では生じなかった現象。なお、整列した線維に接着した細胞は腱の細胞の特徴を示すようになる(分化する)ことが知られている。

図4 コラーゲンMF縦断面の電子顕微鏡写真

⑷弾性率(硬さ)・破断強度(丈夫さ)の向上
 乾燥時のコラーゲンMFの弾性率は延伸倍率とともに増加し、実延伸倍率3.3倍で4.3GPaに達した。本技術のコラーゲンMFは乾燥状態のみならず、生体と同様の湿潤環境下でも極めて硬くて丈夫であった。数百本のコラーゲンMFを束にしたテスト人工腱は、適切な化学処理を施すことで、ヒト膝前十字靭帯(ACL)の3分の1から2分の1に達する弾性率と破断強度を示し(図5)、臨床応用にとって十分な強度を有することが分かった。

図5 コラーゲンMFを束化して作製したテスト人工腱の構造と弾性率及び破断強度

今後の展開
 新田ゼラチンは、本技術の活用により硬くて丈夫なコラーゲン材料を開発することで、医療機器の未踏領域をコラーゲンにより開拓できると考えている。例えば、靭帯が断裂した際に、現在の治療法においては患者自らの腱が移植されることが一般的だが、本技術により生成したコラーゲンMFを用いた人工腱で代替することなどが有望な用途。今後は医学機関と連携した実証研究を精力的に進める。

■参照
 本技術は、英国出版社IOP Publishingの生体材料専門紙において、2024年5月21日付けで公開された。
 掲載専門誌「Biomedical Materials」
 https://iopscience.iop.org/journal/1748-605X
 論文検索 DOI 10.1088/1748-605X/ad49f6

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