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2024/3/6
【シリコーンエラストマー】岐阜大学、CO2に応答して劇的にタフになるエラストマー開発
<研究のポイント>
・ 気体のCO2と反応すると劇的にタフになるシリコーンエラストマー注1)を発明。
・ 周囲の“気体”を感知して性質を変化させるポリマー注2)材料により、新しいCO2有効活用技術を開拓。
・ ポリエチレンなどの他のポリマー材料にも応用が可能。
研究概要
近年、持続的に発展可能な社会の実現を目指し、主要な温室効果ガスであるCO2の排出抑制や回収・貯留、さらに、回収したCO2の有効活用技術の開発が進められている。岐阜大学工学部の三輪洋平教授、米田 華子大学院生らのグループは、気体のCO2に応答して、良く伸びて壊れにくい“タフ”な性質に変化する、新しいタイプのシリコーンエラストマーを開発した。
このエラストマーでは、内部に含まれるアミン注3)とCO2との反応によって生成したイオン成分が集合し、それらがクッションのような働きをするために材料の破壊が抑制され、タフ化が引き起こされる(図1)。また、低濃度のCO2に対しても敏感に応答するだけでなく、塩化水素や無水酢酸などの他の気体にも応答して、粘着力、摩擦力、硬さ、靭性などの性質が変化うる。この研究によって、「CO2を利用したポリマー材料の機能制御」という新しいCO2の有効活用技術の発展が期待される。
この研究成果は、日本時間2024年3月5日にCommunications Materials誌のオンライン版で発表された。
研究背景
動物、植物、昆虫などの生き物は、“気体”を重要な刺激として利用し、日々の生活を営んでいる。例えば、心地良い香りは気分を落ち着かせる効果があるが、逆に、匂いで危険を察知する場合もある。一方で、“気体”を感知して性質を変化させる材料、特に固体状態で使用できるものはほとんどない。しかし、生き物のように“気体”を感知して、例えば、硬さや軟らかさを大きく変化させる材料があれば、息を吹きかけることでオンデマンドに形を変えられるプラスチックなど、ユニークな製品の開発につながるかもしれない。特に、主要な温室効果ガスであるCO2に応答する材料は、例えば、CO2を吹き付けることで、文字が表示されるシークレットインク、硬くなって傷が付きにくくなる、もしくは、逆に、軟らかくなって粘着性が増加し、滑り止め効果の生じるポリマーコーティングなど、「CO2を利用した材料の機能制御」という、CO2の新しい有効活用方法を切り拓く可能性がある。
研究成果
研究では、CO2をはじめとした特定の気体に応答して、良く伸びて壊れにくい“タフ”な性質に変化するシリコーンエラストマーを開発した。
このCO2応答性エラストマーは、アミンをもつポリジメチルシロキサン注4)を架橋することで容易に作成できう(図1左)。このエラストマーは空気中では軟らかくて脆いために、例えば、端子で圧縮すると容易に圧壊してしまう。しかし、CO2と作用させることで劇的にタフな性質に変化し、約20MPaの圧力にも耐えることができるようになる(図2左)。ここで、20MPaの圧力は、1円玉の上に軽自動車を載せた場合の圧力におおよそ相当する。このエラストマーのタフ化は、分子スケールでの構造変化によってもたらされる。すなわち、アミンとCO2との反応によって生じたイオン成分が集合し、あたかもクッションのように振る舞うことで、エラストマーの破壊を抑制する(図1右)。
このエラストマーは低濃度のCO2も敏感に感知し、さらに、塩化水素や酢酸などの酸性ガスや、無水酢酸のガスなどにも応答してタフ化する(図2右)。また、エラストマー100g当たり約2.5gのCO2を吸収する。さらに、このアミンを利用したタフ化技術は、シリコーンエラストマー以外のポリマー材料にも応用可能。例えば、社会で最も広く利用されているポリマーの1つであるポリエチレンにもCO2応答性を付与することができる。
今後の展開
三輪教授らは、これまでにCO2によって軟化するエラストマーも開発した注5)。現在は、CO2によって圧倒的に硬くなるポリマー材料の開発に挑戦している。CO2によって硬さや軟らかさを自在にコントロール可能なポリマー材料群の実現によって、新しいCO2有効活用技術の開拓を目指している。
注1)シリコーンエラストマー
ケイ素を含んだ有機化合物であるシリコーンを原料としたエラストマー。エラストマーとは、室温で液体状のポリマーを部分的に架橋(橋架け)して得られるネットワーク状の分子形状を持ったポリマー材料。柔軟で弾力があり、数倍以上伸び縮みすることができる。一般的に、日常では“ゴム”と呼ばれている。シリコーンエラストマーは、スマホケースなどの日用品をはじめ、化粧品、医療品、乗り物、家電、建築材料など、例をあげると枚挙に暇がないほど日常で幅広く使われている。
注2)ポリマー
分子量がおおよそ1万を超える巨大分子で、ひもの様に細長い分子形状をしている。プラスチックやビニル、ゴムなどとして日常で利用されている。
注3)アミン
化学式NH3で表されるアンモニアの水素原子(H)を炭化水素基(R)で置換した化学構造の総称。例えば、R-NH2など。
注4)ポリジメチルシロキサン
ケイ素を含んだ有機化合物であるシリコーンのポリマーの一種で、もっとも一般的に使用されているシリコーンポリマー。
注5)過去のプレスリリース
2019年4月22日に「世界初、CO2ガスで自己修復を促進する気体可塑性エラストマーを開発」を発表しました。https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/2019/04/entry25-7085.html
論文情報
雑誌名: Communications Materials
論文タイトル: Elastomers mechanically reinforced and toughened with CO2 gas
著者: Yohei Miwa, Hanako Yoneda, Takehito Ohya, Kazuma Okada, Rina Takahashi, Hayato Nakamura, Shoei Shimozaki, Kei Hashimoto, and Shoichi Kutsumizu
DOI: 10.1038/s43246-024-00457-9
論文公開URL:https://www.nature.com/articles/s43246-024-00457-9
研究者プロフィール
三輪洋平:論文筆頭著者、論文責任著者 岐阜大学工学部教授
米田華子:岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士2年生
大矢健人:岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 令和3年度修了生
岡田和真:岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士1年生
高橋利奈:岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 修士2年生
中村勇登:岐阜大学大学院 自然科学技術研究科 令和4年度修了生
下崎翔永:岐阜大学工学部 化学・生命工学科 4年生
橋本 慧:岐阜大学工学部 助教
沓水祥一:岐阜大学工学部 教授
研究サポート
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究領域「力学機能のナノエンジニアリング」(研究総括:北村隆行)における研究課題「イオン架橋の動的特性制御によるポリマー材料の高機能化」(研究代表者:三輪洋平 JPMJPR199B)、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究B(研究者:三輪洋平 19K05612)、CCI研究助成プログラムの支援を受けて行われた。
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