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2026/1/28
【ナノインプリント】産総研、素早く手軽に操作できる多段階調光ブラインドを開発。専用設計パターンの偏光シートを一括成形、2026年1月28日からの「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2026」で公開

産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門の穂苅遼平主任研究員、桑野玄気主任研究員、辻岡一眞研究員、栗原一真研究主幹は、独自のナノ構造を利用した偏光シートを応用して、加工や設置が簡単で手軽に導入できる多段階調光ブラインドを開発した。
ブラインドやカーテンは、窓から差し込む自然光を生活リズムやライフスタイルに合わせて操る仕組み。近年では液晶を使った調光ガラスがその役割の一部を担っているが、その制御に電源を必要とするため導入先は限られている。
今回開発した調光ブラインドは、重ね合わせた2枚のシートを数ミリメートル程度スライドさせるだけで、従来はON/OFFしかできなかった光の透過率を多段階で調整できる。そのため、日差しがまぶし過ぎると感じたときに片手で手軽に快適な明るさに操作できる。シートは、専用に設計された偏光パターンをナノインプリント※1技術で一括に製造できる。光の透過率の制御に電源を必要とせず、近赤外・赤外光の調光も可能なため、住宅向けのニーズがある遮熱効果の調節への応用が期待できるほか、将来的にはセンサー周辺部材への活用などより幅広い分野への展開が期待される。
この技術の詳細は、2026年1月28日~30日に東京ビッグサイトで開催される「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2026」で展示される。
開発の社会的背景
調光技術は、窓やブラインド、照明、アイウェアなどで使われており、日常生活を支える技術。中でもブラインドは、調光機能だけでなく遮熱効果があるため省エネルギーにつながる技術として、カーボンニュートラルの実現にも重要。
ブラインドが設置されているオフィスの窓を見ると、常にブラインドが閉じている場所が多く見受けられる。開閉や角度調整に手間がかかり、動かすとほこりが舞ってしまうこともある。しかし、窓から外を眺めることは、リフレッシュやストレス対策に効果的ともいわれる。このような背景から、手軽に導入・操作できる調光ブラインドのニーズが高まっている。また、建築物や車両の窓における調光機能は、遮光・遮熱効果による省エネルギーや快適性の観点だけでなく、プライバシー保護としての需要も増加している。
従来の偏光板を使った調光ブラインドには、偏光軸が縦横の向きに並ぶように偏光板を切断し交互に貼り付け製造されているものがある。この場合、明るい/暗い、の二つの状態を切り替えることはできたが、段階的な調光は困難であった。段階的な調光を実現するものとして、液晶などを用いた電動調光窓があるが、高価であったり、電源や配線の施工が複雑になったりするのが課題であった。そこで、加工や設置が簡単で手軽に導入でき電源がなくても調光できる、シート状の調光ブラインドの実現が求められていた。
研究の経緯
一般的な偏光板は、その製造方法のために面内の偏光軸は一方向に揃っている。偏光板を利用した調光ブラインドは、偏光軸の角度をずらした偏光板をつないで組み合わせることで段階的な調光が可能になるが、偏光板を切断して交互に貼り付けるような方法では製造工程が非効率なため、実現されていなかった。一方、産総研では、従来の偏光素子の課題を打破するため、その製造方法やナノ構造の形状を工夫した断面が三角波状ナノ構造の偏光シートを開発してきた(2019年7月1日 産総研プレス発表、2022年12月1日 産総研プレス発表)。この偏光シートを調光ブラインドへ応用するべく、シート面上で偏光軸がいろいろな方向になっていても一括で同様に製造できるという開発技術の特徴を生かし、1枚のシート上に複数の異なる偏光軸領域をデザインしたパターン偏光シートの開発を進めてきた。
なお、本研究開発は、科学技術振興機構(JST)「研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同 JPMJTR24RB」による支援を受けたものである。
研究の内容
今回開発した段階調光型ブラインドのために作製したパターン偏光シートは、偏光軸が0°、30°、60°、90°、120°、150°の領域が並んだレイアウトをしており、重ね合わせた2枚の相対位置を変化させることでマリュスの法則※2に基づいてスライド操作だけで面内一様に透過率を段階的に制御できる(図1)。

このような偏光を利用した調光技術の概念はよく知られているものであったが、実際に製造することは簡単ではなく、窓サイズに対応可能な製造技術で実現することが課題であった。それに対して、今回、産総研がこれまでに開発してきた三角波状ナノ構造型偏光子※3の技術を応用し、図2のように、ナノインプリントと真空成膜工程のみで製造できるパターン偏光シートを実現した。従来必要だった偏光板のカット・貼り付け工程が要らず、パターン境界はナノメートルスケールでつながっており、さらにはパターンレイアウトを工夫することで良好な外観を実現している。今回は、2枚のパターン偏光子をスライドしたときに得られる偏光軸の角度差が0°(明るい状態)、 30°(やや明るい状態)、60°(やや暗い状態)、 90°(暗い状態)になるようにパターン偏光子をデザインし作製しているが、この段階数はニーズに合わせて変更できる。また、このパターン偏光シートは、将来的にはRoll to Roll 技術を適用し得るので、大面積で高効率な製造が可能になると見込まれる。

図3に作製に用いたモールドと作製したパターン偏光シートを、図4に開発した多段階調光ブラインドの写真を示す。直線偏光のディスプレイに作製したパターン偏光シートをかざして観察すると、帯状の段階的な明暗模様が確認でき、帯状エリア毎に偏光軸が異なるレイアウトが実現できていることが分かる。これを2枚重ね合わせた多段階調光ブラインドにおいて調光機能の実証に成功し、スライドする位置を0mm、2mm、4mm、6mmと操作したとき、可視光の透過率が30%、24%、13%、4%と段階的な調光制御ができることを確認している。この調光範囲を拡張する開発を進めており、ニーズに合わせてより明るい範囲で調光したり、より暗い範囲で調光したりすることもできる。住居の窓だけでなく、手軽に導入し操作できる特長を生かして、オフィスや打ち合わせスペースの小窓、自動車や電車など移動体の窓、照明機器など幅広い用途での応用が期待できる。また、可視光だけでなく、近赤外や赤外線など波長が長い電磁波でも機能するため、住宅用などでニーズのある遮熱効果の調節への応用が期待できる。センサー用途(車載用赤外センサーなど)においても周囲の状況に応じてノイズとなる環境光の光量調整のニーズに応えることが期待でき、他には電磁波のシャッターのような使い方にも展開される可能性がある。


今後の予定
今後は、大面積化技術の構築・耐久性評価を進め、企業との連携を通じて本技術の社会実装を推進し、あらゆる生活環境、ビジネス環境での省エネ・快適性向上を目指す。さらに、図5に示した応用例のように、パターン偏光シートは意匠性を付与した偏光アート表現なども可能。住宅用ブラインドの調光時に模様を浮かび上がらせるといった応用もできるほか、アート分野、エンターテインメント分野などで応用が期待できる。こうした異分野への展開も視野に入れ、幅広い用途での研究開発を進める。

展示会情報
展示会名称:MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2026
日程:2026年1月28日~ 1月30日
会場:東京ビッグサイト
URL:https://www.optojapan.jp/mems/ja/
ブース番号:産業技術総合研究所 製造基盤技術研究部門 西2ホール2W-A34
※1 ナノインプリント
表面に微細構造が形成されたモールドを用いた加工技術。たとえば熱可塑性樹脂の温度変化による硬さの変化を利用して、樹脂シートを柔らかくしてからモールドで型押しすることで、微細構造をシート表面に転写することができる。他にも紫外線硬化樹脂を利用する方法もある。
※2 マリュスの法則
直線偏光が偏光子を透過したときの光強度を表す法則。入射光強度をI0、入射光の偏光方向と偏光子の偏光軸のなす角をθとすると、透過光強度Iは、I=I0cos2θで与えられる。これは偏光軸が並行(θ=0°)で最大、直交(θ=90°)で最小となる。
※3 三角波状ナノ構造型偏光子
金属の細線をグリッド状に並べることで偏光機能が得られるワイヤーグリッド型偏光子の断面構造を三角波状ナノ構造にした偏光子。ナノインプリント成形工程と真空成膜工程のみで製造することができる。
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