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2025/7/4
【バイオものづくり】Green Earth Institute、NEDO事業で関東圏バイオファウンドリにおいて培養条件検討により生産性3倍でスケールアップに成功
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」事業において、Green Earth Institute(GEI)は、千葉県茂原市に完成させた「関東圏バイオファウンドリ拠点」の機能検証を進めている。本事業では、バイオものづくりを社会実装しようとするユーザー(企業や大学など)が持っているスマートセル(生物の細胞が持つ物質生産能力を最適化して最大限に引き出した細胞)について、生産プロセスの最適化、スケールアップ、サンプル生産などを実施する生産実証を受託している。
2023年6月の本拠点稼働開始から2025年6月までに8件の生産実証案件を実施し、このうち、300Lまたは3000L発酵槽までのスケールアップ検証を完了した7件全て(1件は継続中)において、委託元の企業や大学がラボスケールで検証した有用物質の生産性に対して同等もしくは最大約3倍のスケールアップとなる生産性を実現した。
なお、2026年度に実施する生産実証については、2025年7月28日までの期間で、本拠点での実証案件を募集中。

背景
バイオによるものづくりは、化学プロセスと比較して省エネルギーでの物質生産が可能であるとともに、原料を化石資源に依存しないバイオマスからの物質生産も可能であり、炭素循環型社会実現、持続的経済成長に資するものづくりへの変革が期待できるが、その実用化には、ラボスケールから商用スケールまでに段階的なスケールアップ検討が必要で、時間やコストが大幅にかかるのに加え、人材の確保に課題がある。
このような背景の下、本事業※1でGEIは、千葉県茂原市に最大3000Lの発酵槽などを備える本拠点を構築※2した。本拠点には、高温処理可能な前処理設備によるバイオマスの前処理検討、事業化に向けた培養条件の最適化検討、0.25L~3000Lまでの発酵槽でのスケールアップ検討、有機溶媒を使用可能とする防爆仕様の設備による精製プロセス実証など、前処理から精製プロセスまで一連のバイオ生産実証を実施できる設備を整備しており、ユーザーにおいてはGEI研究員を人材として活用することができる。GEIは、スケールアップなどの生産実証を通じて、ユーザーのスマートセルによる有用物質生産の商用化実現への橋渡しに取り組んでいる。
また、コストや二酸化炭素(CO2)排出量を簡易的かつ適時に算出可能なシステムの技術開発から商用化実現までをサポートしている。
培養条件最適化およびスケールアップ実証の概要
(1)概要
従来、ラボスケールから商用スケールまでのスケールアップでは、段階的な実証が必要なため時間とコストが大幅にかかる課題があった。特にスケールが大きくなると培養槽内の溶液圧力、攪拌状態、溶存酸素濃度などが不均一化するため、ラボスケール検証で得た培養条件をスケールアップに用いた場合、期待どおりの生産性が得られないということが起きる。
これらの課題を克服するため、大型発酵槽で起こりうる溶存酸素やグルコース濃度、pH、温度などの分布をシミュレーションするCFD解析※3や、予想された分布を30Lスケール発酵槽に再現するスケールダウンモデル、実験計画法を活用した培養条件の最適化技術などを開発しており、パイロットスケールの培養条件最適化にかかる検証回数と時間を最小限に抑えることに成功した。

2023年6月に新規設備を本格稼働し、2025年6月までに、アミノ酸、ペプチド、油脂、酵素、有機酸、芳香族化合物など複数の製品を対象に8件のスケールアップを実施。300Lまたは3000L発酵槽での生産実証を完了した案件は7件(1件継続中)あり、それら全てについて、ユーザーがラボスケールで確認した対象物質の生産性に対して同等もしくはそれを上回る生産性を得たスケールアップを実現した。
例として案件1では、GEIは培養条件の最適化検討を行った上で3000Lスケールアップ実証を行い、ユーザーの5L発酵槽での実績と比較して約1.1倍生産性が向上した。案件2では、5L培養槽で最適化検討を行った上で3000Lまでスケールアップ実証を行い、ユーザーのデータと比較して、最終的に約3倍まで生産性を向上させた。

(2)実証実績のある微生物・生産対象物質・原料分類
微生物:大腸菌、酵母、糸状菌など
生産対象物質:アミノ酸、ペプチド、油脂、酵素、有機酸、芳香族化合物など
原料分類:糖類、アミノ酸、グルコース、木質系バイオマス、植物油など
生産実証の募集
2026年度に実施する生産実証は、2025年7月28日までの期間で、本拠点での実証案件を公募ページにて募集している。
今後の予定
本事業の最終年度である2026年度に向け、生産実証を通じて新規前処理技術開発や、培養条件の最適化技術を用いたスケールアップ手法の確立、さまざまな精製条件に対応可能な体制を構築するとともに、生産実証を実施した案件の社会実装に向けた支援を行い、2027年度からこれらの技術を用いたバイオファウンドリサービスを実運用していく。
今後、本拠点で実証した案件を商用生産へ橋渡しすることで日本のバイオものづくり産業の拡大に貢献する。

※1 本事業
事業名:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発/生産プロセスのバイオファウンドリ基盤技術開発
事業期間:2020年度~2026年度(「生産プロセスのバイオファウンドリ基盤技術開発」は2021年度~2026年度)
事業概要:カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発
※2 千葉県茂原市に最大3000Lの発酵槽などを備える本拠点を構築
(参考)NEDOニュースリリース(2023年6月2日)「千葉県茂原市にNEDOバイオファウンドリ拠点が完成、本格始動」
※3 CFD解析
Computational Fluid Dynamics(数値流体力学)解析の略で、流体に関する運動方程式をコンピュータで解く数値流体力学により、空気の流れや温度の分布状況の可視化を行う数値解析、シミュレーション手法。
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