アーカイブ情報

2024/3/8

【ファインセラミックス】NEDOと産総研、キラー欠陥の可視化技術開発。プロセス・インフォマティクス構築目指す

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)産業技術総合研究所は、ファインセラミックスのプロセス・インフォマティクス(PI)の構築を目指して、「次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発」に取り組んでおり、今般、ファインセラミックス焼結体内部に存在する亀裂、気孔などのキラー欠陥を常温・大気圧下でレーザーを用いた蛍光顕微鏡により表面から深さ方向に蛍光像で観察する可視化技術を開発した。
 同技術は、アルミナや窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの明るい色(白、灰色系)のセラミックスに適用できることを確認した。セラミックス焼結体内部に存在して材料特性や品質に影響を与える10~100µm程度のキラー欠陥を非破壊、かつ短時間で検出することが可能となる。キラー欠陥に起因する機械特性の劣化などの予測や、ファインセラミックス製品の品質検査、さらには特性向上に向けた製造プロセスの改良が可能になる。
 今後は、表面や内部に点在する欠陥可視化技術の高精度化に向けた開発を行うす。さらに、さまざまな組成や特性を持つファインセラミックス材を用いてキラー欠陥の分布を統計的に解析し、破壊強度の予測技術の実証実験も進める。同技術により、ファインセラミックス製品の品質管理をはじめ、機械特性の予測、さらには製造プロセスの改良が可能となり、これまでに予想もできなかった革新的な材料の開発が期待できる。

図1 観察技術の高度化と、各種データセットをシミュレーターあるいはAIに入力することによる材料組織・物性の予測

背景
 ファインセラミックス※1の分野では、製造プロセス技術が「経験と勘」に基づくことが多く、製造プロセスの開発に時間とコストを要することが大きな問題。本事業※2はファインセラミックスの全ての製造工程をカバーするPI※3を構築し、高度な計算科学、先端プロセス測定技術を駆使して革新的なプロセス開発の基盤構築を目指している。そのためには、ファインセラミックスの特性に大きく影響するキラー欠陥※4を短時間で簡便に検出する技術開発が必要。
 このような背景から、NEDO、産総研は2022年度から本事業において「高信頼性メカニズム等解析技術の開発」に取り組んでいる。その一環として、ファインセラミックス焼結体内部の広い領域にごくまばらに点在するキラー欠陥を、顕微鏡などにより非破壊で、簡便かつ効率よく検出する方法を探索している。

今回の成果

(1)セラミックス内部の亀裂状欠陥の可視化技術の開発
 セラミックス表面に四角錐形のダイヤモンド圧子(ビッカース圧子)を圧入して、人為的に圧痕と亀裂を導入した。通常の金属顕微鏡を用いた反射像での観察では表面に出ている部分しか、亀裂を観察できない(図2左)。これに対して、常温・大気圧下で、レーザーを用いた蛍光顕微鏡で表面から深さ方向に蛍光像を観察する技術を開発した。これにより、鉛直方向に伸びている亀裂を深さ180µmまで観察できたほか、圧痕から斜め下に伸びている亀裂も確かめた(図2右)。アルミナや窒化ケイ素、窒化アルミニウムなど、白色や灰色などの明るい色のセラミックスにも本技術の適用を確認した。

図2 アルミナに導入されたビッカース圧痕と亀裂の金属顕微鏡による反射像(左) レーザーを用いた蛍光顕微鏡観察より得られた亀裂形態の3次元像(右) (右図中で緑に光っている部分が亀裂を表している。)

(2)セラミックス内部の粗大気孔の可視化技術の開発
 あらかじめ粗大な気孔の存在が試料内部に確認されている緻密な窒化ケイ素焼結体の表面を観察した金属顕微鏡の反射像では、表面に気孔が露出していない限り内部に存在する気孔を観察できな(図3左)。一方、レーザーを用いた蛍光顕微鏡で表面から深さ方向に蛍光像を観察することにより、表面観察では見えなかった粗大な気孔が試料内部に潜んでいることが確認できした(図3右)。このほか、緻密なアルミナ焼結体においても、表面だけでなく内部の気孔の観察ができ、本技術の適用を確認ました。

図3 粗大気孔を有する窒化ケイ素の金属顕微鏡を用いた反射像(左) 左図と同じ箇所を、レーザーを用いた蛍光顕微鏡で観察した、表面から約3µm下の蛍光像(右)

 セラミックス内部の欠陥を観察する既存技術としては、試験片を50µm以下まで薄片化し、透過光で観察する薄片透光法が知られているが、本技術では薄片化せずとも表面を鏡面研磨するだけで直接観察できるメリットがある。また、近年では、マイクロフォーカスX線CTスキャン法により1µmの分解能でおよそ1mm3の領域を観察することが可能となってきているが、3×4×40mmのセラミックス強度試験片の表面全体を検査するには数十時間を必要とする。本技術であれば、非破壊、かつ数分程度で観察可能というメリットがある。

今後の予定
 NEDOと産総研は、本事業において今回開発した表面や内部に点在する欠陥検出技術の高精度化に向けた開発を行う。また、さまざまな組成や特性を持つファインセラミックス材を用いてキラー欠陥の分布を統計的に解析し、これを用いた破壊強度の予測技術の実証実験も進める。本技術により、セラミックス製品の品質管理をはじめ、機械特性の予測、さらには製造プロセスの改良が可能となり、これまでに予想されなかった革新的な材料の開発が期待される。
※1 ファインセラミックス
 化学組成、結晶構造、微構造組織・粒界、形状、製造工程を精密に制御して製造され、新しい機能または特性をもつ、主として非金属の無機物質。
※2 本事業
 事業名:次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発
 事業期間:2022年度~2026年度
 事業概要:次世代ファインセラミックス製造プロセスの基盤構築・応用開発
※3 PI
 プロセス・インフォマティクス(PI)は、材料試作から工業的に利用可能な製造方法に至る開発をより加速させるため、実験科学、理論科学、計算科学と、近年の進展が著しいデータ科学を、統合的・融合的に活用することにより、目的材料の合成プロセスを効率的に探索する技術。
※4 キラー欠陥
 製品に致命的な特性低下を発生させる欠陥。セラミックス材料の場合だと、10~100µmのサイズの気孔(欠陥)が存在すると、その物性を大きく低下させる。

カテゴリー
コンバーティングニュース

PAGE TOP