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2024/1/16

【ポスト5G】アラクサラネットワークスと慶應義塾大学、NEDO事業で高精度「サイレント障害検知技術」開発

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」で、ネットワークの自動運用につながる基礎技術の確立に取り組んでおり、その一環でアラクサラネットワークス慶應義塾大学は、従来は検出が難しかった1%以下の微少なパケットロスを検出し、異常の見逃しと誤検知を同時に低減する、高精度な「サイレント障害検知技術」の開発に成功した。
 この技術に加え、億単位の端末のフローを識別・制御し、柔軟かつ効率的で高精度にトラフィック情報の収集と帯域制御を行う「フレキシブルネットワークセンサー技術」、ネットワークに負荷をかけずに必要に応じて最適なデータ収集や帯域制御を行う「リソース制御技術」を開発した。また、これらの技術を組み合わせることで、少ない収集データ量と計算機リソースで異常検知や分析を高精度に行う「ダイナミックドリルダウン制御技術」を開発した。これにより、ネットワークが自律的かつ高精度に異常検知や分析を行う、高度なネットワーク監視・制御技術を開発した。
 本技術により、ポスト5G時代の多接続化・多様化するサービスに対応して、サイレント障害をはじめとする通信品質の劣化やサービス障害の検知精度を向上し、高度な監視運用を実現することで、ネットワーク運用の容易化と人材不足への対応、ポスト5G時代のネットワークの発展に貢献する。

背景
 ポスト5Gネットワーク基盤は、通信の超高速化、超大容量化、超多接続化の効果により、快適な通信環境を提供する次世代の重要な社会インフラとなることが期待されており、遠隔医療や車の自動運転などさまざまなサービスを支える重要な役割を担う。このような通信インフラのサービスを安定して提供するには、現行のネットワーク障害の1~3割を占めると言われ、長時間かつ大規模障害の原因となりやすい、既存の運用監視システムなどでは検出されないサイレント障害の解消が大きな課題となっている。さらに、サイレント障害のようなネットワーク障害の解析では、ネットワークの複雑化、高度なスキルを持つ人材の不足により、復旧までの時間が長期化し、障害の解析が難しくなっている。
 このような背景を踏まえ、NEDOの実施する本事業※1において、アラクサラネットワークスと慶應義塾大学は、ネットワークが自律的かつ高精度に異常検知や分析を行う、本技術の開発に取り組んだ。

今回の成果
(1)高効率・高精度に監視するフレキシブルネットワークセンサー技術の開発
 従来のトラフィック※2データ収集技術では、ネットワーク機器への負荷と、十分な解析を行うために必要なトラフィックデータの質が上がらない点が課題であった。今回、専用のハードウエア機構を用いてノンサンプリング※3のトラフィックデータから付帯情報(メタデータ※4)をコレクタにて収集を行うことで、ネットワーク機器に負荷をかけずに、精度の高いトラフィックデータの収集が可能となった。これにより、億単位の端末が接続されたネットワークにおいてもフローの識別が可能となり、多接続化するポスト5G時代におけるさまざまなサービスを、高効率・高精度に監視するフレキシブルネットワークセンサー技術を開発した。
(2)リソース制御技術の開発
 フレキシブルネットワークセンサーは、ノード※5のハードウエアの機能を再構成可能とすることで、ネットワークに負荷をかけずに必要に応じて最適なデータ収集や帯域制御を行うことを可能にした。このような、従来のノードとは異なる再構成可能ノードに対応して、ネットワークとノードのリソースを最適に利用できるようセンサーリソースの配備を行うリソース制御技術を開発した。
(3)1%以下の微少なパケットロスも検出可能なサイレント障害検知技術の開発
 サイレント障害は、ノードや伝送路におけるパケットロスが主要な原因となっている。今回、機械学習技術とネットワークのドメイン知識※6を組み合わせることにより、検知精度の高いサイレント障害検知技術を開発した。これにより、異常の見逃しと誤検知を同時に低減し、従来は検出が難しかった1%以下の微少なパケットロスの検出を実現した。
(4)ダイナミックドリルダウン制御技術の開発
 (1)~(3)の技術を組み合わせることで、サイレント障害につながるパケットロスなどの品質状況を広範囲に監視し、少ないモニタリングデータから異常の糸口をつかみ、データ収集方式を何段階も変えながらより深く対象の監視を行い、障害の要因特定や対処を自動的に行うダイナミックドリルダウン制御技術を開発した。これにより、少ない収集データ量と計算機リソースでサイレント障害の検知や分析を高精度に行うことが可能となり、ネットワークが自律的かつ高精度に異常検知や分析を行う本技術を開発した。
 本技術により、ポスト5G時代の多接続化・多様化するサービスに対応して、サイレント障害をはじめとする通信品質の劣化やサービス障害の検知精度を向上し、高度な監視運用を実現することで、ネットワーク運用の容易化と人材不足への対応、ポスト5G時代のネットワークの発展に貢献する。

図1 本技術のイメージ

今後の予定
 アラクサラネットワークスは、サイレント障害の対処をはじめとしたさらなるネットワーク監視・制御技術の精度向上に取り組むとともに、本技術をネットワーキングソリューションとして、通信事業者のネットワークや企業・公共機関などのネットワーク・クラウドサービスに提供することで、安全・安心な通信インフラの提供や、ポスト5G時代のネットワークの発展に貢献する。慶應義塾大学は、本技術をセキュアネットワーキング基盤技術として各種通信インフラに取り込む研究開発に取り組み、ポスト5G時代の安全・安心な情報通信ネットワーク技術の基盤強化に貢献する。
 また、NEDOは、本事業をはじめ、ポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術の研究開発を今後も推進し、日本のポスト5G情報通信システムの構築・製造基盤強化に貢献する。
<注釈>
※1 本事業
 事業名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
 事業期間:2020年度~2023年度
 事業概要:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
※2 トラフィック
 ネットワーク回線で送受信される通信データの量のこと。分かりやすく言い換えると「ネットワーク上でやりとりされる情報の量」となる。
※3 ノンサンプリング
 全てのパケットのトラフィックデータを収集するという意味。詳細な情報を正確に収集することができる一方で、処理は高負荷になりやすい方式。これに対し、一部のパケットのトラフィックデータを抽出するサンプリング方式がある。サンプリング方式は、ノンサンプリング方式に比べ処理の負荷を下げることができるが、微少なパケットロスなどの解析は困難。本事業では、ハードウエアベースでノンサンプリングのトラフィックデータを収集することにより詳細な解析を可能としている。
※4 メタデータ
 フローごとのパケット数やバイト数などの、ネットワークトラフィックの分析に適した集約されたデータ、という意味。トラフィックデータをメタデータに集約することにより、収集データ量を最大数千分の一と大幅に削減可能。
※5 ノード
 ネットワーク内で送受信される通信データの中継を行う1つひとつの装置のこと。
※6 ドメイン知識
 本事業分野に関する広範な専門知識のことであり、本事業を実施する上での基礎となるもの。

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