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2025/3/5

【ポスト5G対応半導体チップ】マグナ・ワイヤレス、大阪大学、NICT、NEDOの委託事業で開発。遅延時間を50分の1に短縮、ローカル5Gによる産業DXを加速

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託事業である「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」において、マグナ・ワイヤレス大阪大学大学院工学研究科(大阪大学)、情報通信研究機構(NICT)は共同で、世界初となる超低遅延通信を実現するポスト5G対応半導体チップ(以下、ポスト5Gチップ)を開発した。
 ポスト5Gチップは、5G無線通信の処理時間(遅延時間)を従来の約10msから0.2ms以下へと50分の1に短縮した。これにより、超低遅延が要求される制御信号などにも無線通信の適用が可能となる。具体的には、人工知能(AI)サーバーからローカル5G無線通信を介してロボットをリアルタイムに制御できるようになる。マグナ・ワイヤレスは、2025年度中にポスト5Gチップを製品化する計画。
 本成果により、スマート工場、物流、医療など、産業分野におけるローカル5Gの普及拡大と産業DXの加速が期待される。

図1 開発したポスト5Gチップ

背景
 5G(第5世代移動通信システム)は、高速大容量(eMBB)、超多数接続(mMTC)、超低遅延(URLLC)の3つの特徴を持ち、これらの特性は本来トレードオフの関係にある。また、産業用途に必要な数ms以下の超低遅延通信に対応した半導体チップは提供されていなかった。このため多くの用途に無線が適用できず、産業活用が期待されるローカル5Gの普及が進まない1つの要因となっていた。
 このような背景を踏まえ、NEDOが実施する本事業※1において、マグナ・ワイヤレス、大阪大学、NICTは共同で、世界初の超低遅延通信が可能なポスト5Gチップ(図1)を開発した。本チップはソフトウエア無線(SDR:Software Defined Radio)にも対応しており、さまざまな応用に対して最適な無線方式を選択できる。また、ローカル5Gの通信性能を向上する新無線通信方式も併せて開発した。
 今回の成果は、ローカル5Gの普及促進と産業DXの加速に加え、AIの高度活用が可能な次世代ネットワークの実現にも貢献することが期待される。

今回の成果
(1)ポスト5Gチップの開発
 今回開発したポスト5Gチップは、図2に示すアーキテクチャとなっており、以下の特長を有す。
[1]超低遅延通信の実現
 チップ内の無線信号処理を専用ロジック回路とすることで、従来10ms以上の遅延時間を0.2ms以下に大幅に短縮し、超低遅延通信を実現した。
[2]多彩な通信設定の対応
 SDR機能により、遅延または帯域優先、上り/下り通信の比率、無線変調方式といった多彩な通信設定を可能にした。周波数273通り×時間280通り×変調29通り×上り・下り2通りの設定により、さまざまな用途で最適な無線設定が選択できる。
[3]ネットワークスライシング※2の機能拡張
 信号処理部とプロトコル処理部を分離し、SDR機能を活用することで、ネットワークスライシングの機能を拡張し、ワンチップで複数かつ多種のスライシングに対応した。今回の活用事例として、超低遅延通信と高速大容量通信が混在したスライシング数3以上での動作を確認した。
[4]各種基地局との接続
 複数ベンダーの基地局との相互接続性を確認済みであり、本チップは汎用的に各種無線システムに適用することが可能。

図2 ポスト5Gチップのアーキテクチャと特長(端末の適用例)

(2)新無線通信方式の開発
 ローカル5Gの通信性能向上を目的に、以下の2つの新無線通信方式を提案・開発した。これらの新方式は、ポスト5GチップのSDR機能を用いて実装することにより、システム構築が可能。
[1]低遅延/多元接続5Gアサイン方式※3
 同一の無線リソース(周波数および時間)を共用するNOMA方式により2台のユーザー端末(UE)の同時接続を実現し、低遅延映像伝送に成功した。本成果は、電子情報通信学会の通信ソサイエティ・コミュニケーションシステム(CS)研究会から表彰を受けている。
[2]端末スライシング向け画像伝送方式(Deep JSCC)※4
 本方式は、画像を含む多用途な無線システムにおいて、より高品質な画像伝送と高効率な通信を提供する。

今後の予定

 マグナ・ワイヤレスは、2025年度中にポスト5Gチップを製品化する予定。ポスト5Gチップの活用により、超低遅延特性を利用した下記の多様な応用が実現し、産業DXの加速につながることが期待される。
[1]スマート工場/物流/医療の実現
 低遅延・ジッターレス※5な無線通信により、ロボットのリアルタイム制御や協調動作を可能にし、生産、物流、医療現場での効率性と生産性を飛躍的に向上
[2]エッジ負荷の低減とAI活用の拡大
 エッジ(端末)とAIサーバーが超低遅延無線を介してリアルタイムに連携した次世代ネットワークにより、エッジでのコンピューティング負荷を低減するとともに、高度なAI活用を拡大
[3]ドローン制御の高度化
 遠隔からの高度かつ俊敏なドローン制御により、配達、防災、警備などの新サービスを実現
 マグナ・ワイヤレスは、ポスト5Gチップの製品化を通じてローカル5Gの普及を推進するとともに、新たな市場創出と通信技術のさらなる発展に寄与する。
 NEDOは、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化を目指す。
<注釈>
※1 本事業
 事業名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/ポスト5G情報通信システムの開発/超低遅延向けSDR対応5G半導体チップの研究開発(委託)
 事業期間:2021年度~2024年度
 事業概要:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業
※2 ネットワークスライシング
 サービスごとにネットワークを仮想的に分割(スライス)して、さまざまな品質要求に対応できる技術のこと。
※3 低遅延/多元接続5Gアサイン方式
 詳細は以下を参照。
 森山雅文他、「5G NRに対応したUL-NOMAシステムの開発」、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.124、No.100、CS2024-31、pp.102-107、2024年7月
※4 端末スライシング向け画像伝送方式(Deep JSCC)
 詳細は以下を参照。
 Keigo Matsumoto et al, “Implementation of Deep Joint Source-Channel Coding on 5G Systems for Image Transmission”, IEEE 98th Vehicular Technology Conference (VTC-Fall), Hong Kong, Oct. 2023.
※5 ジッターレス
 ジッターは信号の時間揺らぎのことであり、ジッターレスとは時間揺らぎがない(または十分に小さい)こと。

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