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2024/8/7

【半導体】レゾナック、AI活用の最先端シミュレーション技術で材料開発加速。CMPスラリーによる基板研磨メカニズムの解明に、精度を維持しつつ、10万倍速以上の計算手法を初めて適用

 レゾナックは、材料開発のためのシミュレーションとして一般的に用いられる計算手法「第一原理計算」と、人工知能(AI)を融合した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術」を、CMPスラリー*1による半導体回路の研磨メカニズムのシミュレーションに初めて*2導入し、解明した。NNP技術は、これまで難しかった化学反応のシミュレーションを、第一原理計算と同程度の精度を維持しながら、10万倍以上の速度で実施できる技術。同社は、本技術により複雑な半導体製造プロセスで起きている材料の挙動を解明し、迅速な新材料創出に繋げる。
 昨今、半導体分野では、技術革新のスピードが加速しており、迅速に新材料を提供することが求められている。シミュレーションにより見当をつけて実験することで、効率的に研究開発し、新材料の創出を加速する取り組みが行われているが、半導体製造プロセスの場合は、無機物、金属、有機物など異なる性質を持つ材料との界面における相互作用を計算する必要があるす。こうした場合、第一原理計算を使うのが一般的だが、同計算手法は、精度の高い計算結果を出せる一方、計算に多くの時間と計算能力が必要となるため、複雑な化学反応や、圧力など周囲の環境を考慮したメカニズムのシミュレーションは困難。また、解析できる反応時間も限られていることから、半導体材料分野には適していなかった。中でも、半導体製造に重要なCMPスラリーによる半導体基板の研磨工程に対しては、添加剤や研磨剤など多くの分子・原子が存在するうえ、基板の複雑な形状を細かくコントロールする必要があり、時間的にも空間的にも大規模なシミュレーションが切望されていた。
 同社は、数年前からAI半導体*3を用いることでAIの性能を飛躍的に高めたNNP技術を、半導体材料開発へ導入する検討を行ってきた。この最先端のNNP技術を用いれば、第一原理計算から得られる数千万件にも及ぶ膨大なデータをAIに機械学習させて、第一原理計算に匹敵する高い精度で、大規模なシミュレーションができるようになる。その計算速度は、第一原理計算で1000年以上かかるところ、100時間で実施できる。
 レゾナックは、CMPスラリーによる半導体基板の研磨工程のシミュレーションを実施するため、最先端のNNP技術を用いた。その結果、ナノメートル*4スケールで複雑な界面の挙動を精密に可視化することで、実験だけでは捉えにくい複雑な研磨メカニズムを詳しく理解することができた。

CMPスラリーによりシリコンウェハー表面が研磨される際のシミュレーション

 基板形状や加工条件など周囲環境の影響を含む詳細なプロセスが明らかになることで、より確度高く、求める機能を出す原料候補を見つけられる。その結果、新材料の開発期間が大幅に短縮できる。
 NNP技術は、界面や異種混合などの複雑な解析に有効であり、同社では、CMPスラリー以外の半導体材料分野でも適用している。
<計算情報科学研究センター 奥野好成センター長のコメント>
 「AIを活用したNNP技術は、最先端の計算科学技術を生かして、より高度な材料解析や新たな材料・素材発見を実現できる、新たな技術です。AI半導体を用いたコンピュータでAIを活用したシミュレーションを行いそれによってさらに良いAI半導体開発をする、面白い時代になってきたと実感します」
*1 半導体集積回路向けの平坦化用研磨材料。CMPは「Chemical Mechanical Polishing」(化学的機械研磨)の略。スラリーは水系の研磨剤のことで、砥粒と水溶液で構成されている。研磨するウェハーの表面材質に応じて、セリアスラリーやシリカスラリー等、複数の種類に使い分けられる。表面を平坦化することで回路を多層化できるようになるため、現在の高集積化された半導体デバイスの製造において欠かせない材料になっている。
*2 同社調べ(NNPをCMPスラリーのメカニズム解析に適用した論文を調査。2024年7月時点)
*3 AI半導体と呼ばれるGraphical Processing Unit (GPU)は、高度な行列計算能力を持つプロセッサであり、AIおよびNNP技術のような大規模なデータ処理やシミュレーションを高速で行うために不可欠。GPUの導入により、従来の計算手法に比べて格段に高い処理速度と効率が実現できるようになった。
*4 10億分の1メートル
*5 物体内部や表面で平行な方向に相対的に滑るように働く力のこと。物体の変形や破壊の原因になる。

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