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2026/2/12

【新規材料】大阪大学、リンテック、“強いのに柔らかい”引っ張って剥がして繰り返し使える粘着剤を開発

図 1. 2 種類の架橋により発現する性能イメージ.

 大阪大学大学院理学研究科の大学院生・小鯖翔さん(博士後期課程)、山岡賢司助教、髙島義徳教授と、リンテックの研究グループは、ディスプレイ用途の粘着剤に求められる「段差追従性」「接着信頼性」「易解体性」を同時に満たす新規材料を提案した。

 同研究では、ドーナツ型の環状分子であるシクロデキストリンをグラフトした高分子と、その空孔に別の高分子が貫通した高分子編み込み(KP)構造に、アルミニウムイオンによるキレート架橋を導入した複合架橋材料を設計した。その結果、同材料が、KP構造に由来する優れた応力緩和性と、キレート架橋による高い接着信頼性を両立することが確認された。

 さらに、従来の柔軟な粘着剤では「引っ張りによる粘着剤の除去」が困難であったが、同材料ではこの現象が高分子鎖が二種類の架橋の作用により小さな力で配向し、「接着性の低下」と「剥離力の効率的な伝播」が同時に引き起こされることに起因するものであることを世界で初めて見出した。また、キレート架橋は特定の溶媒により除去されるため、粘着剤の溶解除去が可能なこと、さらに加熱プレスによる再成型によって繰り返し利用可能な粘着シートであることも確認された。

 今回の成果により、工業製品製造時の不良率低減や被着体および粘着剤の廃棄量削減が期待されるとともに、解体プロセスの簡略化を通じて、製品リサイクルに要するエネルギーの低減に貢献することが期待される。

 同研究成果は、2026年1月1日(木)にElsevier誌「Chemical Engineering Journal」(オンライン)に掲載された。

【髙島教授のコメント】
 本研究では、動く架橋と組み換え可能な架橋という二種類の結合を組み合わせることで、「強いのに柔らかく、必要なときにはきれいに剥がせる」という、従来は両立が困難だった粘着特性を実現しました。分子レベルの動きが材料全体の挙動を支配する仕組みを明確にできたことは、新しい粘着剤設計の指針になると考えています。

研究の背景
 ディスプレイ製品はスマートフォンやタブレット、モニターなど、現代の生活に欠かせないデバイスとなっています。その内部構造を見ると、光学用フィルムや表示部材(液晶パネル・LED 基板など)が何層にも重ねられ、透明な光学用粘着剤で接着された構成をしています。こうした粘着剤は各層ごとに様々な性能を持つように設計されてきた。しかし近年ではディスプレイの薄型化やフィルムの高機能化により層の数が減少しており、粘着剤には一層で多くの機能が求められ、高価な部材を再利用するために容易に除去することが求められています。今回の研究はそうした現状に対し、ディスプレイ用粘着剤の中でも重要な凹凸追従性(額縁印刷段差や小さな異物による気泡を防ぐ性能)、接着信頼性(長時間・高温・低温環境下でも貼合したものがずれない・剥がれない)、易解体性(必要な時に完全に除去できる)を単一の樹脂材料一層で実現することを目指して材料設計を行いました。

研究の内容
 研究グループでは、シクロデキストリン(CD)をグラフトした一次高分子と、その空孔に貫通した二次高分子からなるニットポリマー(KP)構造に、アルミニウムイオンによるキレート架橋を導入することで、可動架橋と金属配位架橋を併せ持つエラストマー(KP-AC(x))を構築した(x: アルミニウムイオンのmol%)。KP-AC(x) は −26 °C 程度の低いガラス転移温度を維持しつつ、アルミニウム添加量に応じてネットワーク強度を制御することができる。40 °C・24.5 kPa のクリープ試験では、KP-AC(5)以上の系で70000 秒以上にわたり顕著な変位は見られず、優れた接着信頼性が確認されています。一方で段差追従試験では、最大で粘着層の厚みに対して 7~14% の段差を埋め込み、高架橋密度(KP-AC(10))でも優れた追従性を保持した。この性能は応力緩和試験の解析結果からも支持されている。さらに、KP-AC(10) は一軸伸長により低荷重で完全剥離が可能であり、2 種類の架橋が伸長時の接着性低下および応力伝播を高分子鎖の配向を通じて効率的に起こすことで「伸長誘起剥離」を実現することを世界で初めて見出した。加えて、150 °C ホットプレスによる再成形や、アセチルアセトンによる完全溶解除去も可能であり、持続可能なディスプレイ製造に寄与する多機能材料の設計を実証した。

図 2.(a)高分子編み込み材料の化学構造.(b)複合架橋と単独架橋の材料による応力緩和性の比較. (c)定速一軸引張による粘着剤除去の様子.(d)加熱プレスによる再成型前後での機械特性.

同研究成果が社会に与える影響(研究成果の意義)
 同研究成果により、可動な架橋と金属配位架橋の役割が明確になり、2 種類の架橋がそれぞれに特色を発現することが可能であることが実証された。同材料はディスプレイをはじめとする工業製品の製造工程において不良率の低減、廃棄物の削減、リサイクルコストの削減への寄与が期待される。加えて、柔軟性・強靭性・分解性を同時に満たす必要のある粘着材料やその他樹脂材料の設計において、非共有結合性の架橋を複数組み合わせる新たな設計や研究分野の開拓につながると期待される。

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