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2024/2/15
【核融合】Helical Fusion、商用炉に不可⽋な高温超伝導導体開発で19kAの通電試験に初成功
世界初の定常核融合炉実現を目指し、ヘリカル型核融合炉の開発を進めるHelical Fusionは、独自の高温超伝導導体(HTS:High Temperature Superconductor)試験機を設計・製作し、実証実験に成功したことを発表した。試験機は、-253度(20ケルビン)の極低温かつ8テスラの強磁場環境下において、 電気抵抗のない超伝導状態で19kAの通電試験に成功し、HTSマグネット開発にあたって重要なマイルストンを達成した。同実証実験は、世界でも有数の「大型導体試験装置」を所有する核融合科学研究所(岐阜県土岐市)において実施されている(図1参照)。
HTS試験機は、今回の実証実験用にHTS線材であるREBCO*を30枚積層し、約3cm四方で長さ4m強のケーブル状導体に製作された(図2、図3参照)。「大型導体試験装置」および関連装置の最大通電量(20kA)に合わせた試験機が今回準備されたが、将来的には同導体中により多くのHTS線材を積層させることで、 今回実施した実験よりも数倍規模の通電量を実現させ、1mm2当たり100Aを超える大電流密度**の導体開発を目指している。 大電流密度の導体開発は、よりコンパクトで高性能な核融合炉の開発に直結する。また、今回の試験機では、将来的な導体の量産化を視野に、独自のHTS線材の接合方法も取り入れられた。
究極のクリーンエネルギーとされる核融合炉は、米中を始め各国が開発競争を進めている。その心臓部分ともいえる高温超伝導マグネットの開発は、直近数年は欧米企業が先行しているが、この開発競争に今回、Helical Fusionが名乗りを上げた。
Helical Fusionは、2023年10月に日本政府から20億円のSBIR Phase 3補助金(核融合分野)に採択され(1社当たり最大額)、HTSおよび核融合炉の開発を加速させている。超伝導分野においては、今後も、2025年にコイル状の実証実験、2026年以降に実際の炉に使用するヘリカル型コイルの実証実験を進めていく予定。
本導体は、1998年に磁場閉じ込めコイルを超伝導化した世界初の核融合プラズマ実験装置を完成させ、長年、超伝導開発において世界を主導してきた核融合科学研究所の知見を土台にHelical Fusion研究開発部門統括の宮澤順一が発案。その「大電流密度」に加え「曲げやすさ」(図4参照)を特徴としており、核融合炉に限らず他分野への応用が期待されるテクノロジー。今回試験機では、フジクラ のREBCO線材を使用し、金属技研に設計と製作の補助を受け、核融合科学研究所に設計と実験をサポートしてもらった。
Helical Fusionは、今後も、超伝導分野において最先端の導体開発を主導し、世界的にもコスト競争力ある核融合炉の早期実証を目指す。
*REBCO
希土類元素を含む銅酸化物の高温超伝導体の略称。従来使用されてきた低温超伝導体の金属系超伝導体に比べて柔軟性や強度が劣るものの、低温超伝導線材と比較して「高温」の-253℃付近でもマグネットに用いることができるのが特徴。資源的に希少性高い液体ヘリウムを使う必要がなく、また高磁場環境下でも動作できる性質を有する。
**電流密度
電流値を導体の断面積で割った値。電流密度を高くできると核融合炉のマグネットを細くでき、プラズマの周りを取り囲む機器の設置に余裕ができる。家庭のコンセントの通電量が15Aであり、本試験ではコンセント同様の大きさに1,000倍以上の電流を通電させて超伝導状態を維持している。今後、より電流密度を上げていくと、同じ大きさでコンセント数千倍の通電が可能となる。
■Helical Fusionについて
Helical Fusion(ヘリカルフュージョン)は磁場閉じ込め方式で核融合(フュージョンエネルギー)の社会実装を目指す日本発のスタートアップ。次世代のエネルギー源として、世界では60年以上かけて様々な核融合方式が開発されている。日本では、DNAに似た二重らせん構造の超伝導ヘリカルコイルを用いて高温のプラズマを安定に閉じ込めるヘリカル方式が生まれ、大きく育まれてきた。同社はこのヘリカル方式にさらなる独自の最先端技術を取り入れた、世界初の定常核融合炉の開発を目指す。
■Helical Fusion:田口昂哉(代表取締役)からのコメント
高温超伝導技術は、核融合炉の心臓部ともいえる電磁石(コイル)を構成するコア技術であり、炉のコンパクト化や性能向上という観点で商用炉には必須の技術と考えられています。高温超伝導技術を世界に先駆けて完成させることは、商用核融合炉実現に向けた重要な一歩であると同時に、日本が核融合産業において覇権を握ることにも繋がります。この度、多くのパートナー企業様、研究所様のご尽力のおかげで重要な開発マイルストーンを達成できたことを嬉しく思いますとともに、実用化に向けてさらなる開発を、弊社一同推進して参ります。
■核融合について
原子力発電では燃料にウランやプルトニウムを用い、“核分裂反応”によりエネルギーを発生させる。この際、処理に約10万年が必要な高濃度の放射性廃棄物質が生まれる。また、分裂反応は連鎖反応であり制御が難しい特徴がある。
一方、“核融合反応”では、燃料として重水素や三重水素といった水素の同位体を用いる。低レベルの放射性廃棄物は発生するが、半減期が短く約100年程度で一般物に戻るとされている。また、核融合反応を起こすために必要なプラズマ温度・密度・閉じ込め時間といった条件自体が難しく、条件から外れると自動的に反応が止まり連鎖反応が起こらないことから、安全性が高いと考えられている。
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