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2026/2/25

【水系酵素インク】東京理科大、スクリーン印刷に適合した酵素インクを開発

研究の要旨とポイント
 酵素、炭素材料、メディエーター、増粘剤、結着剤を一体化した「水系酵素インク」を開発し、スクリーン印刷により酵素電極をワンステップで作製できる技術を確立した。

 開発したバイオ燃料電池は開回路電圧0.63 V、最大電力密度165 μW/cm2を達成し、長時間にわたり酵素が高い活性を維持することが示された。

 研究成果はバイオセンサや自己発電型デバイスの実装における大きな進展であり、印刷技術を活用した量産性の向上と性能安定化が期待される。


研究の概要

 東京理科大学 創域理工学部 先端化学科の四反田 功准教授、同大学大学院 創域理工学研究科 先端化学専攻の大守 麻尋氏(2025年度 修士課程1年、共同第一著者)、株式会社レゾナックの花崎 充氏らの共同研究グループは、スクリーン印刷により酵素電極を基板上に直接ワンステップで作製できる水系酵素インクを開発した。

 酵素バイオ燃料電池やバイオセンサは、医療・健康管理・環境モニタリングなど幅広い分野での応用が期待されているが、実用化には製造プロセスの簡略化と性能の安定化が不可欠。従来の電極作製法では、炭素材料を印刷した後、酵素やメディエーター(反応を助ける物質)を別工程で添加する必要があり、工程が複雑で性能のばらつきが生じやすいという課題があった。特に、酸素を利用するカソード側の電極をスクリーン印刷で作製することは技術的に困難とされてきた。

 今回の研究では、酵素、炭素材料、メディエーター、増粘剤、水系結着材(バインダー)を一体化した「水系酵素インク」を新たに設計・開発した。このインクをスクリーン印刷に使用することで、紙基板上に電極を一括形成でき、印刷後も酵素の活性が維持されることを示した。また、これまで困難とされてきたカソード側の電極についても、スクリーン印刷により作製可能であることを実証した。作製した電極は、従来法と比べて高い電流を安定して発生し、長時間の動作でも性能低下が抑制されることが確認された。さらに、乳酸濃度が汗中の実用的な範囲にある場合でも十分な応答を示し、実際のウェアラブル用途に適した特性を有していた。

 同技術は、酵素バイオ燃料電池にとどまらず、乳酸、グルコース、その他の生体成分を対象としたバイオセンサや、印刷技術を用いた低コスト・量産型の計測デバイスへも応用可能。「印刷できる酵素インク」という基盤技術を確立したことで、将来的には電池交換のいらないウェアラブルセンサや、環境・医療・スポーツ分野での新しい計測デバイスの実現につながることが期待される。

 同研究成果は、2026年2月6日に国際学術誌「ACS Applied Engineering Materials」にオンライン掲載された。


研究の背景

 近年、皮膚に直接貼り付けて心拍数や体温、汗中の成分などを連続的に測定できるウェアラブルセンサが注目されている。しかし、こうしたデバイスの多くは動作に電源が必要であり、小型電池の交換や長期装着時の安全性が実用化に向けた課題となっている。この課題を解決する手段として、酵素の触媒作用を利用して体液中の乳酸やグルコースを直接電気エネルギーに変換する酵素バイオ燃料電池が重要視されている。この技術が実用化されれば、外部電源を必要としない自己給電型のウェアラブルセンサが実現可能となる。

 一方、従来の電極作製法では、炭素材料を印刷した後に、酵素やメディエーターを別工程で滴下・乾燥させる多段階プロセスが必要であった。そのため工程が複雑で時間がかかり、性能のばらつきも生じやすいことから、再現性や量産性の面で課題があった。「酵素インク」という概念は以前から存在していたが、工業的なスクリーン印刷に対応しながら酵素活性を保持できる実用的なインクは、これまでほとんど開発されていなかった。

 そこで同研究グループは、酵素活性を損なわない水系結着剤を用いた新しい酵素インクの開発に着手した。このインクにより、バイオアノードとバイオカソードの両電極を紙基板上にワンステップで直接スクリーン印刷できる技術の確立を目指した。

研究結果の詳細
 酵素(乳酸オキシターゼ、ビリルビンオキシターゼ、FAD依存性グルコース脱水素酵素)、炭素材料(MgO鋳型メソポーラスカーボン)、酸化還元メディエーター(NQS: 1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸ナトリウム、1,2-ナフトキノン、ABTS: 2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))、増粘剤(カルボキシメチルセルロース)、結着剤(ポリゾールLB-100)を一体化した水系酵素インクを作製した。スクリーン印刷により基板上に電極を作製し、電気化学特性や長期安定性などを評価し、従来のドロップキャスト法よりも優れた酵素電極を一括形成できることを明らかにした。

同研究における特に重要な成果を以下の1~6に示す。
1. 「印刷できる」実用的な酵素インクを初めて確立
 これまで「酵素インク」という考え方は提案されてきたが、スクリーン印刷などの工業的印刷法に適し、かつ酵素活性を保ったまま安定して使用できるインクはほとんどなかった。同研究では、水系結着剤を用いることで、実際にスクリーン印刷が可能で再現性の高い酵素インクを実現した。

2. 電極形成を「一工程」に簡略化し、ばらつきを大幅に低減
 従来のドロップキャスト法では、炭素電極の形成後に酵素を滴下・乾燥させる多段階プロセスが必要であった。今回、印刷するだけで機能する電極を基板上に一括形成でき、電極性能のばらつきを低減し、量産性の向上に成功した。

3. 「カソード」もスクリーン印刷で実現
 酵素バイオ燃料電池では、酸素を利用するカソードの印刷が特に困難で、スクリーン印刷可能な酵素インクはこれまで存在していなかった。同研究は、カソード用酵素インクを含めた両極のスクリーン印刷を可能にした点で大きな進展。

4. 高い出力と長時間安定動作を両立
 開発した酵素バイオ燃料電池は、開回路電圧0.63 V、最大電力密度165 μW/cm2と、これまでの報告と比べて優れた性能を示した。長時間の動作でも性能低下が抑えられ、ウェアラブル用途で重要となる安定性と実用的な出力性能を両立している。さらに、5℃、真空下での長期保存において最良の性能を示し、酵素活性の維持には温度管理と酸素の排除の両方が重要であることを明らかにした。

5. バイオ燃料電池に限らず、バイオセンサ全般へ応用可能
 同技術は発電デバイスだけでなく、乳酸やグルコースをはじめとするさまざまな生体成分を測定する印刷型バイオセンサ全般に応用可能な基盤技術。スクリーン印刷による一括製造プロセスにより、従来法と比較して低コスト化と大量生産が実現でき、医療、スポーツ、環境モニタリングなど幅広い分野での計測デバイスへの展開が期待される。

6. ロール・ツー・ロール印刷による量産展開を実証
 実験室レベルにとどまらず、実際のスクリーン印刷機を用いた連続印刷による量産デモンストレーションを行い、製造工程の再現性と安定性を確認した。これにより、産業応用への現実的な道筋を示すことができた。

 同研究を主導した四反田准教授は、「均一に印刷でき、量産に適した酵素インクの必要性を感じ、同研究に取り組みました。本研究で開発した「印刷可能な酵素インク技術」は、電池交換を必要としないセンサの実現につながり、さまざまな場面での活用が期待されます。例えばスポーツ分野でのトレーニングやコンディションの管理、介護・医療分野での健康管理や異変の早期発見、熱中症予防システムへの応用が考えられます。このように本技術は、「身に着けるだけで体調を見守る」センサの基盤として、安全で安心な社会の実現に寄与する可能性があります」と、コメントしている。。

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