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2025/8/27

【水系電池】東北大と日東紡、リサイクルが簡単な水系電池の電極材料を開発

【発表のポイント】
●親水性ポリアミンに、電荷貯蔵を担うp-ジヒドロキシベンゼン(注1)を導入することで、電解質が水溶液である水系電池(注2)の電極材料への展開を可能にした。
●開発された高分子は、水系電池の材料として高い性能を示し、100℃以下の温和な条件で原料に分解できることを実証した。
●同手法によって、リサイクルが簡単な水系電池の開発ができるようになり、脱炭素社会の実現に大きく貢献できる。

 可逆的に電荷貯蔵(酸化還元、レドックス)できる有機レドックス高分子(注3)は、電池の電極材料として注目されている。特に最近では、安全で環境に優しい水系電池への応用に向けた研究が進められている。しかし、同高分子の多くは疎水性であり、水系電池へと応用するには、親水性を付与する必要があるほか、それらの分解は他の高分子材料と同様に簡単ではなかった。

 東北大学 多元物質科学研究所の岡 弘樹 准教授と大窪航平 助教、同大学 大学院工学研究科の北嶋奨羽  大学院生、日東紡績の五十嵐和彦 上席技術統括 SVらの共同研究チームは、水に溶かすとプラス電荷を帯びることで高い親水性を示すポリアミンに、簡便な縮合反応(注4)を用いて、高い電荷貯蔵能を持つp-ジヒドロキシベンゼンを導入した。これにより、高い親水性を維持したまま、水系電池の電極材料として常温(25℃)で活用できる有機レドックス高分子を開発した。また、同高分子が、100℃以下の温和な条件で原料に分解できることを実証した。今回の研究により、リサイクルが簡単な水系電池の開発ができるようになり、脱炭素社会の実現に大きく貢献できる。

 この成果は、2025年8月26日付けで高分子科学の専門誌Polymer Journalにオンライン掲載され、特集号「Rising Stars-2025-」に選出された。

研究の背景
 有機レドックス高分子は、地球上に豊富に存在する元素(炭素、窒素、酸素など)から構成され、電荷を迅速に貯蔵できることから、高い電流密度で電荷を貯蔵できる電極材料として精力的に研究が進められている。 近年、電解液(注 5) に水溶液を用いることで発火の危険がなく、環境に優しい水系電池が注目されている。金属電極を用いた水系電池では、充放電に伴い電極表面に針状結晶が形成され、短絡による容量の低下を招くことが課題である。その解決案として、針状結晶が生じない有機電極(注 6) で金属電極を置き換え、性能を向上させる研究が報告されてきた。
 しかし、有機電極の材料として有望な有機レドックス高分子は疎水性であることが多く、水系電池に応用するためには、これらに親水性を付与する必要がある。また、プラスチック汚染の深刻化に伴い、高分子材料には、十分な性能を発揮するだけでなく、使用後に分解できることが求められている。しかし、多くの有機レドックス高分子は、非常に強固な構造を持つため、分解には高温処理などの大量のエネルギーが必要になるという課題があった。

今回の取り組み
 リサイクルの簡単な水系電池(図 1)の開発に向け、アミンと簡便に縮合可能な p-ジヒドロキシベンゼン誘導体と親水性の高いポリアミンであるポリアリルアミン(日東紡績製)との簡便な縮合剤(DMT-MM)を用いた反応(図 2 上)により、親水性の有機レドックス高分子(p-ジヒドロキシベンゼン導入ポリアミン)を合成した。p-ジヒドロキシベンゼンの導入率は、反応温度を変えることで容易に調整できた。


 負極材料に p-ジヒドロキシベンゼンを 43%導入したポリアミン、正極に白金/炭素触媒、電解液に酸性水溶液を用いた空気電池 (注 7) を作製し、その性能を評価した。その結果、図 3 に示すように、同電池の容量は理論値の 99%以上に達し、100 回の充放電サイクル測定後も 99%以上の容量を維持した。このことから、p-ジヒドロキシベンゼン置換ポリアミンは電極材料として高い性能を持つことが示された。
 さらに、同高分子は強酸性水溶液中、80℃で 72 時間加熱する(図 2 下)ことで 91%を原料へと分解でき、ポリアミンを主鎖とする高分子において、材料のリサイクルが可能であることを初めて示した。

今後の展開
 同研究にて、親水性であるポリアミンに電荷貯蔵能を持つ疎水性分子を導入することで、水系電池の電極材料として高い性能を示したほか、強酸性水溶液中で加熱することで簡単に原料に分解することを実証した。同研究成果は、リサイクルの簡単な水系電池の開発につながることが期待される。

注1. ジヒドロキシベンゼン:高い電荷貯蔵能を有する化合物。
注2. 水系電池:構成材料として水を使用した電池。
注3. レドックス高分子:電荷を貯蔵・放出できる高分子。
注4. 縮合反応:官能基をもつ化合物から低分子がとれて新しい結合が生成
する反応。
注5. 電解液:電気が流れる溶液。
注6. 有機電極:金属元素を含まない電極。
注7. 空気電池:空気中の酸素を使用して電荷を貯蔵・放出する電池。

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