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2025/11/26
【生分解性バイオプラスチック】岩手大学・東京農大・ヤマモリ、醤油の副産物 しょうゆ油 による生分解性バイオプラスチックの生合成研究成果の査読付き論文が公開
総合食品メーカー、ヤマモリは、岩手大学と 東京農業大学との産学共同研究で、しょうゆ醸造の副産物・しょうゆ油によるPHA合成を2023年に発表。さらに研究を重ね、しょうゆ油のPHA合成の原料としての実用性を確認した。
同研究は、しょうゆ油がPHA合成の原料として十分利用可能なことを示すことができた初めての報告として、2025年10月30日にBioscience, Biotechnology, and Biochemistryにオンライン掲載された。
■研究の概要
生物資源を原料としてオールバイオプロセスで微生物合成される生分解性バイオプラスチックであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、新たな環境調和材料として注目されている。PHAは、バイオマス由来の糖や油を原料として生合成することが可能であり、近年、原料コストの削減や、製造・加工場で生じる副産物を処理できるといった廃棄物レスなどの相乗効果を加味し、従来は廃棄物とされていた物質をPHA合成の原料とする様々な試みがなされている。同研究では、醤油製造過程で副産物として生じ、使用用途の限られていたしょうゆ油を、PHA合成の原料とすることを目指した。
醤油は、製造の過程でしょうゆ油が副産物として発生するもので、令和5(2023)年度のしょうゆ油の発生量は約3,000トンに及ぶ(※)。現在、しょうゆ油は工業用せっけんの原料や燃料として使用されているが、この副産物を未利用資源ととらえ、さらに付加価値のある活用(アップサイクル)ができないかという視点で検討した。
(※)日本醤油協会発表
■研究成果のポイント
▸同研究ではしょうゆ油がPHA合成の原料として十分利用可能なことを示すことができた初めての報告。
▸しょうゆ油を利用した際のPHA生産性は、従来原料として利用されてきた植物油を用いた時と比較してほぼ同等であることが明らかとなった。
▸しょうゆ油の主要成分は脂肪酸エチルエステルであり、脂肪酸エチルエステルを主要成分としてPHAが合成されることは、ほとんど報告されていなかった。同研究でしょうゆ油に含まれる脂肪酸エチルエステルが資化されることが明らかとなった。
▸さらに、しょうゆ油を利用した際、植物油使用時と同様に、分子量が高く汎用性の高いPHA共重合体を合成できることが明らかとなった。
同成果は、岩手大学の山田教授と芝崎祐二教授、東京農業大学・前橋健二教授、眞榮田麻友美助教(現・佐賀大学)、ヤマモリの共同研究によるもの。
代表的なPHA合成菌であるCupriavidus necator(水素細菌の一種)は、様々な原料からPHAを生産できる。しかし、これまでにしょうゆ油を用いた報告はなかった。同研究では、本菌がしょうゆ油を含む培地で典型的なPHAであるpoly(3-hydroxybutyrate) [P(3HB)]を合成できることを見出した。さらに、本菌の遺伝子組換え株は、しょうゆ油を含む培地で加工性の高いPHAであるpoly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyhexanoate) [P(3HB-co-3HHx)]を合成できた。 P(3HB-co-3HHx)の生産性と、P(3HB-co-3HHx)中の3HHx分率は、他の植物油を用いた場合の結果とほぼ同等であった。また、合成されたPHAの分子量と熱特性も、一般的なPHAと同等であった。よって、同研究では、しょうゆ油が生分解性バイオプラスチック生産の持続可能な原料として利用できることを示すことができた。
■今後の展望
同成果を基盤として、PHA合成菌の遺伝子組換えや、大スケールでの最適な培養条件を検討してPHA生産性を工業化レベルまで向上させることで、しょうゆ油を原料としたPHA合成法の実用化を目指す。
■しょうゆ油とは?
▸概要
大豆、小麦、塩、水を原料とし、麹菌や乳酸菌、酵母などが働き醤油は醸造される。その過程のうち、醤油の素となる『生揚(きあげ)』を得る目的で、諸味(もろみ)を圧搾(あっさく)する。その際に得られる副産物として、『しょうゆ粕』、『しょうゆ油』が得られる。しゅうゆ油は褐色の透明な液体で、油溶性。
※圧搾とは、大きな布で諸味を絞り液体の生揚を得る工程を指す。

▸しょうゆ油の成分は?
しょうゆ油の成分は、脂肪酸エチルエステル。PHA生合成に従来使用されてきたい植物油脂(大豆油やパーム油)は、約97%以上がトリグリセライドであり、しょうゆ油と主要成分が異なる。今回の研究に用いたしょうゆ油の成分は以下の通り。

■しょうゆ油を原料とした生分解性プラスチックの生合成について
▸生合成について
生分解性プラスチックには様々な合成方法がある。今回の研究では、微生物培養法を用いた生合成を研究した。従来、植物油脂(大豆油やパーム油)を用いたPHAの生合成としては、トリグリセライド(中性脂肪)が主要成分と言われてきた。今回の研究成果から、しょうゆ油に含まれる主要成分である『脂肪酸エチルエステル』をPHA合成菌(微生物)が代謝して、生分解性バイオプラスチックであるP(3HB)や、P(3HB-co-3HHx)が合成されると推測される。今回の研究によって、脂肪酸エチルエステルが主要成分である油脂を用いてPHAが合成されることが、初めて明らかになった。

▸合成されたPHAについて
しょうゆ油を原料として典型的なPHAであるP(3HB)のみならず、加工性の高いPHAであるP(3HB-co-3HHx) (以下、PHBHと略)をPHA合成菌の遺伝子組換え株を用いて合成できた。PHBHは、可塑性や熱安定性が高い特性を持ち、典型的なPHAに比較して加工し易い特徴がある。

▸PHA合成に伴う脂肪酸エチルエステルの変化
上記のように、しょうゆ油を原料とした微生物を用いた培養方法を検討し、生分解性プラスチックの1つであるPHAを生合成できることが分かった。PHA生合成に用いられる成分を調べる目的で、微生物の培養によって脂肪酸エチルエステルが変化するかを調べました。脂肪酸エチルエステルとは総称で、例えばリノール酸エチル、オレイン酸エチル、などが挙げられる。
しょうゆ油を分析したところ、リノール酸エチル、オレイン酸エチル、パルミチン酸エチル、リノレン酸エチル、ステアリン酸エチルが含まれていた。PHA合成する前の培養前と、PHA合成が終了した培養後の各脂肪酸エチルエステル量を比較した。結果としては、すべての脂肪酸エチルエステルが減少していることが分かった。よって、しょうゆ油を用いたPHAの微生物生合成においては、脂肪酸エチルエステルが生合成に寄与していることが明らかとなった。

■炭素循環サイクル
今回の研究成果に基づいた炭素循環サイクルについての概略は下記の通り。植物(大豆、小麦)を主原料とした醤油醸造より得られる副産物として、しょうゆ油がある。しょうゆ油は、微生物を用いたオールバイオプロセスを経て、生分解性バイオプラスチックへと生まれ変わる。これを原料として生分解性プラスチックが成形・加工され流通される。基本的にはリサイクル回収できることが望ましいが、一部環境中に放置されてしまったとしても、生分解する性質があることから、環境中の微生物によって水と二酸化炭素へ変換される。植物がこれらを用いて光合成することで、再び大豆や小麦が生産される、というサイクルが考えられる。
醤油醸造が作り出す炭素循環サイクルの社会実装に向け、引き続き研究開発を進めていく。

掲載論文
題目:Microbial production of polyhydroxyalkanoate from soy sauce oil, a byproduct of soy sauce manufacturing
著者:Miwa Yamada1, 2, 3*, Munenori Hayashida1, Miwa Abe1, Yuji Shibasaki2, 3, 5, Mayumi Maeda4, Kenji Maehashi4, Masaori Uyama6 and Takafumi Miyake6
1:Department of Life Sciences, Studies in Molecular Biology and Biochemistry, Iwate University
2:Agri-Innovation Center, Iwate University
3:Center for Sustainable Materials and Interfacial Science (CSMIS), Iwate University
4:Department of Fermentation Science, Tokyo University of Agriculture
5:Department of Chemistry and Biological Sciences, Faculty of Science and Engineering, Iwate University
6Yamamori incorporated
誌 名:Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
公表日:2025年10月30日(オンライン)
■参加団体の役割とコメント
国立大学法人 岩手大学
PHAは現在、植物油を原料とした合成法で実用化されていますが、石油を原料とするプラスチックと比較するとまだまだ価格の面では高価です。本研究は、PHA原料の多様性を広げると共に、しょうゆ油のような安価な原料を使用することで、PHA合成のコストを削減できる可能性も提示することができた成果です。
<役割>研究の中心を担う
学校法人 東京農業大学
この研究は、醤油製造に伴って生じる「しょうゆ油」という廃棄物を、資源の有効利用につながる副産物に変えるという点ですばらしい成果といえます。「発酵油」ともいえるしょうゆ油に新たな価値が見出されました。
<役割>研究のアドバイザーとしてかかわる
ヤマモリ
醤油は多種多様な微生物が働く事で作られる伝統的な調味料です。当社では、これら微生物の潜在能力を信じ、醤油の秘めた可能性を明らかにすべく様々な研究を行って参りました。食べて美味しい醤油が、環境にも配慮出来るという付加価値を見出せたと考えております。社会実装を目指し検討進めてまいります。
<役割>研究の企画と立案
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