アーカイブ情報

2025/6/10

【異種材料接合】OKIとNTTイノベーティブデバイス、高出力テラヘルツデバイスの量産技術を確立

異種材料接合を用いた高出力テラヘルツデバイス

 OKIは、NTTイノベーティブデバイスと共同で、CFB(Crystal Film Bonding、(注1))技術を用いて、InP(インジウムリン)系UTC-PD(注2)を放熱性に優れたSiC(シリコンカーバイド)上に異種材料接合することにより、接合歩留まりを向上させ、高出力テラヘルツデバイスの量産技術を確立した。テラヘルツデバイスは、次世代通信規格である6Gにおける大容量・低遅延通信や、安全性向上に貢献する高精度な非破壊検査などの基盤技術として期待されている。両社は本成果をもとに製品開発を進め、2026年の量産化を目指す。

 テラヘルツ波は、電波と可視光線の中間に位置する電磁波の領域であり、電波の「透過性」と光の「直進性」の特性を兼ね備えている。非破壊検査分野やセキュリティ用途への応用では、X線検査技術で問題となる生体への侵襲性(注3)がないことから、その開発が期待されている。またワイヤレス通信への応用においては、キャリア周波数を高くすることで、より大容量の通信システムの実現も期待されている。しかし、テラヘルツ波は大気中での減衰が大きいという課題があるため、高出力なテラヘルツデバイスの開発が求められている。さらに、社会実装を進めるには量産技術の確立も不可欠である。

 こうした課題にNTTデバイスは、超高速・高出力動作が可能なInP系UTC-PDに二波長の光を入射することでテラヘルツ波を発生させるフォトミキシング素子(注4)の改良も進めてきた。特に、ワイヤレス通信で標準的な多値変調信号(注5)を長距離伝搬させるためには、多値変調光通信信号をテラヘルツ信号に変換する際にリニアリティ(注6)を維持しつつ高出力化を図ることが重要であり、フォトミキシング動作における1dB飽和出力(注7)を高くすることが求められている。この高い1dB飽和出力値を実現するために、NTTデバイスは素子の放熱特性に着目し、InP系UTC-PDを放熱性の高いSiCに直接接合する技術の検討を進めた結果、従来比約10倍の性能向上(1mWを超える1dB飽和出力値)を持つフォトミキシング素子を実現できる見通しを得した。

 一方で、従来のプロセスでは、InP系UTC-PDとSiCを接合するため、InP系エピタキシャルウエハーとSiCウエハーをウエハーボンディングによって全面接合していました。しかし、全面接合は一般的に歩留まりが低く、たとえばウエハーとウエハーの間に一つでも異物の混入があると、その周囲の広範に影響が出てしまいる。そのため、この方法では歩留まりの向上に大きな課題があった。さらに、デバイスの動作に必要なInP系結晶薄膜はウエハー全面の約10%に過ぎないが、従来はウエハー全面を接合していたため、残り約90%以上の不要なInP系結晶薄膜を後工程で除去しなければならず、材料コストの課題もあった。

 OKIは、CFB技術を用いて、InP系エピタキシャルウエハー上のInP系結晶薄膜を素子レベルで分割し、デバイスの動作に必要な部分のみを選択的にピックアップして、SiCウエハーへ異種材料接合した。CFB技術は、プリンター市場で培った異種材料接合技術であり、約20年にわたる量産の実績によって、すでに高い歩留まりを確立している。また、素子レベルで分割されたInP系結晶薄膜を、ウエハーサイズで一括接合するため、効率の良いプロセスである。CFB技術で接合した素子の歩留まりを集計した結果、従来のプロセスと比べ、約50%だった接合歩留まりが、ほぼ100%となり、接合プロセスにおける歩留まりが飛躍的に向上した。さらに、素子レベルで結晶薄膜を分割した後に、素子を選択的に接合することで、従来プロセスでは除去していた結晶薄膜も有効活用できるようになった。これにより、材料の利用効率向上による低コスト化や環境配慮へ貢献する。

 CFB技術で結晶薄膜が接合されたSiCウエハーに対して、NTTデバイスは、デバイスプロセスを経てUTC-PDを形成し、チップ化を行った。チップ化後のデバイス評価では、単素子において、1dB飽和出力値が1mW以上を達成し、高出力かつ優れたリニアリティが実証された。さらに、従来の接合プロセスによるデバイスと比較して暗電流(注8)が約1/3に低減されたことから、CFB技術はInP系結晶薄膜の特性を良好に維持したまま接合できるプロセスであることが確認された。

 この共同実証により、高出力なテラヘルツデバイスの量産技術を確立し、社会実装が現実のものとなった。

共同実証におけるプロセス概要

 今後両社は、同共同成果をもとに、テラヘルツデバイスの2026年の量産化を目指し、6G通信技術の商業化や、非破壊センシング技術の広範な活用に焦点を当て、産業界や学術界との連携を強化していく。また、共同開発した技術を通して次世代社会の実現に向けた取り組みを加速させ、日本およびグローバル市場に向けた技術の先進性を世界に発信していく。

 なお、OKIは、2025年6月29日に北海道札幌市で開催される「30th OECC/PSC 2025」のワークショップ、また、2025年8月1日に東京ビックサイトで開催される「COMNEXT」のセミナーにて同技術について説明を行う。

用語解説

注1:CFB

Crystal Film Bondingの略。結晶薄膜(Crystal Film)を剥離し、異なる材料の基板やウエハーに異種材料接合するOKI独自の技術。異種材料接合は接着剤を使わない直接接合が特長。

 

注2:UTC-PD

Uni-Traveling Carrier Photodiode(単一走行キャリア・フォトダイオード)の略。従来の半導体素子では実現できなかった超広帯域における高出力信号発生が、その独自の動作モードによって可能になった素子。特にテラヘルツ波領域で応用が期待されている。

 

注3:侵襲性

治療や検査などで、患者や被験者の身体に与える物理的な負担の程度を示す。

 

注4:フォトミキシング素子

2つ以上の光信号を混ぜ合わせて、その差の周波数の信号(光ビート信号)を発生させる半導体素子。

 

注5:多値変調信号

デジタル通信における変調方式の一つで、従来の2値(0と1)の信号に対し、4値や8値、16値など、1回の変調でより多くの情報を載せることができる信号。

 

注6:リニアリティ

入力信号の大きさに対して出力信号の大きさが比例関係(直線関係)になる特性。リニアリティが高いほど入力に対する出力が忠実に追従する。

 

注7:1dB飽和出力

性能指標のひとつ。入力信号を増加させた際に、出力信号が理想的な増幅特性から1dB下がるときの出力レベル。大きいほど高出力ができ、実用的な最大出力の目安になる。

 

注8:暗電流

光の入力が無いときに受光素子から発生する微小な電流。不要なノイズとなるため、暗電流が小さいほど、デバイスの検知感度が向上する。

カテゴリー
news
コンバーティングニュース

PAGE TOP