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2024/11/7
【結晶スポンジ】東大大学院工学系研究科応用化学専攻/社会連携講座「統合分子構造解析講座」の佐藤宗太特任教授とダイセルの共同研究グループ、開発に成功
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻/社会連携講座「統合分子構造解析講座」の佐藤宗太特任教授、ダイセルの共同研究グループは、次世代の結晶スポンジを開発した。
革新的な構造解析技術である「結晶スポンジ法」(注1)に用いる結晶スポンジ材料を探索する中で、細孔内の環境が親水的で、かつ物理的・化学的に安定な耐溶剤性、耐真空性のある新しい結晶スポンジ(MOF:金属有機構造体)を見出した(図1)。従来の結晶スポンジに比べ、細孔内に取り込める有機化合物の範囲が大幅に拡大し、創薬を始め、さまざまな分野への適用が期待でき、社会実装に向けて大きく前進した。
<発表内容>
研究の背景
結晶スポンジ法は、2013年に東京大学の藤田誠卓越教授らが科学誌ネイチャーに発表した新しい構造解析技術。絶対配置(注2)を含む分子の構造は、解析対象分子を結晶化して単結晶X線回折法で解析するのが最も信頼性の高い手法と考えられているが、化合物の結晶化が必要という点が大きなボトルネックであり、「単結晶X線構造解析の100年問題」と言われている。化合物量が微量だと結晶化は難しく、そもそも液体や気体分子は結晶化しないが、結晶スポンジ法は、この結晶化工程を必要としない革新的な技術。 内部にナノメートルサイズの孔を有する多孔性の結晶(MOF)を作製し、このナノ空間に解析対象分子を染み込ませて捕捉することで分子が規則正しく配列し、単結晶X線回折法により分子構造を決定できる。
研究の成果
社会連携講座「統合分子構造解析講座」では、結晶スポンジ法を中核技術の1つとして用い、分子構造解析に関連した多くの分野の企業とともに産学連携による研究を進めている。対象分子の範囲を拡大するための、新しい結晶スポンジの開発も研究課題の1つ。ダイセルの権藤圭祐研究員は大学に常駐して技術獲得、さらに発展的な研究に取り組んだ。
その中で今回、共同研究グループが独自に開発した、有機配位子にアミド基を導入した新しい結晶スポンジは、物理的かつ化学的安定性が高く、細孔環境が従来の結晶スポンジと反対の親水性であることから、極性が高い分子に適用できるようになった(図2)。また従来の結晶スポンジは、細孔内に溶媒分子を取り込むことで構造を保持しているため、構造解析時はまず、溶媒分子を構造解析対象分子で置換する必要があった。
しかし新たに開発した結晶スポンジは、真空下加熱して細孔内の溶媒分子を完全に除去して空にしても構造を安定に保持できることが明らかになった。そのため、この特性を活かした、ガスクロマトグラフ(GC)分取と結晶スポンジ法を組み合わせたシームレスな新規構造解析手法である「GC分取×ダイレクト結晶スポンジ法」の開発に取り組んだ。
溶剤に溶解した複数の香気成分(5mg/mL)をガスクロに注入し、カラム分離した各香気成分を分取管に詰めた結晶スポンジに包接させ、結晶スポンジを取り出してX線構造解析を実施したところ、それぞれの香気成分の構造を決定することができた。このように、材料としての安定性が向上したことから取り扱いが容易になり、結晶スポンジ法の社会実装に向けて大きく前進した。微量で揮発性が高いために解析が難しかった臭気成分や環境物質の構造解析も可能。本研究成果は、2024年11月の第125回有機合成シンポジウム(有機合成化学協会主催 11月7~8日)で発表予定。
今後の展開
今回の開発により、結晶スポンジ法はより革新的かつ汎用性のある構造解析技術として、創薬を始め、より広い分野への適用、貢献が期待できる。特有の化学的性質を有する最小単位である分子の構造を明らかにすることは、医薬・バイオ関係からセンシング、半導体、環境に至るまで、あらゆる分野の材料を扱う上で、最も基本的で重要なことであり、研究開発の加速はもちろん、機能材料においては機能発現メカニズムの解明なども可能になる。結晶スポンジ法の社会ニーズを的確に捉えた社会実装を通じて、循環型社会構築への貢献が期待される。
発表者・研究者等情報
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 社会連携講座「統合分子構造解析講座」
佐藤宗太特任教授兼分子科学研究所客員教授
ダイセル研究開発本部評価解析センター
権藤圭祐研究員
足立知子主任研究員
学会情報
学会名:第125回有機合成シンポジウム
題 名:耐溶剤性、耐真空性のある新しい結晶スポンジの開発
発表者名:権藤 圭祐、足立 知子、佐藤 宗太
URL: https://www.ssocj.jp/event/125symposium-p/
注1)結晶スポンジ法
こちらを参照。
注2)絶対配置
不斉中心に結合した置換基の空間的配置のこと。この配置の違いにより、全く異なる活性を示す場合もあり、絶対配置の決定は活性評価の上でも非常に重要。
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