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2024/6/20

【LIB】エマルションフローテクノロジーズ、エマルションフローを用いた世界初のリチウムイオン電池高効率リサイクル実証プラントを稼働

 エマルションフローテクノロジーズ(EFT)は、電気自動車や電子機器の退役リチウムイオンバッテリーの効率的なリサイクルを行う「エマルションフロー小型実証プラント」の稼働により、2024年6月よりリサイクル電池開発向けのサンプル提供サービス「EFTファウンドリー」の提供を開始した。
 電気自動車の普及が加速する自動車業界やICT機器に関連する電池業界においてリチウムイオンバッテリー(LIB)のリサイクルが急務となり、世界的にも各社が開発を進めようとしている。しかしながら、退役LIBの流通が少ない現状においては開発に必要な量を回収することが難しく、さらには退役LIBの粉砕後に残る、レアメタルを豊富に含有したパウダー状の素材(ブラックマス(*1)、以下BM)は電池の種類によっても多様な性状をもち、その処理条件によって組成や品質も異なるため、リサイクル原料品質に合わせたプロセスを用いる必要がある。また、これを大型のプラントで処理する場合にはコストがかかり、さらに環境的な影響を考慮する必要もあった。EFTは、原子力機構(*2)が開発した革新的な溶媒抽出「エマルションフロー」技術を活用するスタートアップであり、蓄積してきたプロセスデータベースに基づき、顧客より提供されたBMに対して適切なプロセスを提案するとともに、数10kgオーダーのリサイクル原料の評価を通じて、リサイクルLIBに適した原料品質やリサイクルコストの最適化を図る。
エマルションフロー小型実証プラントの特長
 このたび運用を開始したエマルションフロー技術を用いた小型実証プラントは、リサイクル電池開発向けの硫酸コバルト、硫酸ニッケル、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどの「リサイクル原料」を製造することが可能。本プラントは、BM重量で1時間当たり2~5kg程度の処理を可能とし、これまでにも30時間以上にわたる連続運転により、LIBのリサイクル材として適した高い純度で数10kgオーダーのリサイクル原料の回収に成功している。

図1 エマルションフロー小型実証プラント
図2 ブラックマスから回収したリサイクル原料(左からBM、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、炭酸リチウム)

EFTファウンドリーとは
 ファウンドリーとは一般的に開発受託サービスのことを指す。EFTでは、本サービス向けに設計した装置の稼働に合わせ、退役LIBのBM調達量が少量の段階のお客様にも、カスタムオーダーによるLIBリサイクルプラントの建設プロジェクト提案、エンジニアリング、運用までトータルでサポートを行うことができるようになった。
 EFTは、顧客より提供されるあらゆるタイプのBMに対し、要求されるリサイクル原料の品質を実現するための抽出プロセスを受託開発し、パイロットレベルから商用レベルでリサイクル原料を供給する。それにより、顧客は計画段階から高額投資が必要なアセットを持つことなく、求める仕様のリサイクル原料を確保することができるうえ、商用レベルでの実証結果をもとに自社でのリサイクルLIB量産に向けた原料の効率的な調達、あるいは適切なサイズのLIBリサイクルプラントの開発も可能になる。

図3 ファウンドリーサービスの流れ

今後の展開
 2026年には日本国内で商用スケールのリサイクルプラントの稼働を計画しており、本開発受託サービスにおいて、リサイクルLIBの量産開発に必要な数100トンオーダーのサンプル提供を可能にする。
■エマルションフローテクノロジーズについて
 エマルションフローテクノロジーズ(EFT)は、原子力機構(*2)で開発された溶媒抽出技術「エマルションフロー」を活用した事業を展開する2021年設立のスタートアップ企業。「エマルションフロー」は、従来の溶媒抽出技術と比較して、低コストで高効率に高純度な元素分離を可能にする革新的な技術であり、レアメタルを取り巻く社会課題の解決に寄与できると期待されている。特に、資源循環事業では、「エマルションフロー」を活用することで、廃棄されたLIBなどに含まれるコバルトやニッケル、リチウムといったレアメタルを低コストかつ低環境負荷で高純度に回収する技術を確立し、回収したレアメタルをハイテク産業に直接再利用する「水平リサイクル」の事業化を目指している。
■エマルションフロー技術について
 溶媒抽出とは、物質の分離・精製手法の1つであり、互いに交じり合わない液相間における物質の分配を利用することで、目的成分のみを選択的に抽出するための技術。従来の溶媒抽出技術では、液相同士を「混ぜる」「置く」「分離する」の3工程を必要としますが、エマルションフローは単純な送液と撹拌のみで、これら3つの工程をすべて同時に行うことができる革新的な溶媒抽出技術。そのため、エマルションフローは従来技術であるミキサーセトラーに比べると4~10倍程度の生産能力を可能とし、故に従来比75%以上のダウンサイズ、そして、ランニングコストの低減を可能にする。また、コンパクト故にフレキシブルなプラント設計が可能なだけではなく、ナンバリングアップ方式による高いプラント拡張性を有している。そして、連続処理が可能な多段エマルションフローにより99.99%以上の高純度化が可能であり、従来技術と比較して低コストで高効率にレアメタルの高純度精製が可能となる。一方、エマルションフローの高い油水分離能力は水相への油分の混入を防ぎ、有機溶媒の損失を低減させるだけでなく、油の混ざらないクリーンな排水を実現する。また、エマルションフローは従来技術では実現できないレベルで、極めて高い濃縮性能を有しており、単純なOA比(水相と油相の流量比)の調整だけで、数十倍を超える高濃縮が可能になる。このように、エマルションフローは単にコンパクトなだけではなく、従来技術では困難な条件で効率的な溶媒抽出を実現する。
*1 ブラックマスとはリチウムイオン電池に使われるレアメタルが含まれた粉末材料
*2 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
*3 ミキサーセトラーとは溶媒抽出を行いながら2液に比重分離する装置。LIBリサイクルにも使用されるが一般的に大型で高額投資を必要とする

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