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2025/9/13
【PFAS】NanoFrontier、Go-Tech事業による低コストかつリアルタイムに検出する有機ナノ色素の開発開始
東北大発スタートアップのNanoFrontierは、このたび経済産業省・中小企業庁の「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」に採択され、有機ナノ色素を用いた特定PFAS(有機フッ素化合物)の現場即時検出ソリューションの事業化に向け、量産化と安定供給体制の構築を本格的に開始した。
Go-Tech事業は、中小企業が大学や公設試等と連携して取り組む研究開発から試作・販路開拓までを最長3年間一貫支援する制度で、旧サポイン事業および旧サビサポ事業が令和4年度に統合され誕生したもの。NanoFrontierはこの枠組みの下、東北大学の研究チームとの連携を強化し、設計・製造・品質保証の標準化によって、現場が使える形での継続的な供給とサービス提供を推し進める。
PFASをめぐっては、世界的に人の健康や環境への影響が懸念され、各国で規制が強化されている。米国では2024年に飲料水中の複数PFASに対する初の法的拘束力を持つ基準(MCL)が最終化され、PFOAとPFOSは4pptが設定された。日本でも、PFOS・PFOA(合計)50ng/Lの暫定目標値を水道の水質基準へ格上げし、検査と基準超過時の改善を水道法で義務付ける方向で2026年4月施行を目指す動きが示されている。こうした動向は、自治体・産業現場における高頻度・広域の実測ニーズを着実に押し上げている。
現状のPFAS検出は、LC-MS/MS(液体クロマトグラフ質量分析計)によるラボ分析が“金標準”として広く用いられているが、前処理の手間や分析コスト、測定リードタイム、専門人材の確保、サンプル輸送・管理などの負担が大きく、手軽な確認には適さない。NanoFrontierはこのボトルネックに対し、難水溶性の有機色素を合成して再沈殿法でナノ粒子化し、水中で安定に分散させる独自の有機ナノ粒子化技術により、特定PFASが存在すると瞬時に呈色する検出試薬品を実装する。装置に依存せず視覚的に判定できることから、現場の意思決定に必要なスクリーニング密度と応答速度を確保でき、ラボ分析とは補完関係を築きつつ、現場の判断回数を飛躍的に増やす。

本件は、東北大学での研究成果を踏まえつつ、Go-Tech事業においてはその量産化・標準化・安定供給に焦点を絞ることで明確に棲み分ける。具体的には、合成から再沈殿、分散安定化、乾燥・保存、出荷検査に至るまでの各工程で、原材料の選定指針、設計空間(Design Space)、工程管理(PATの適用を含む)、ロット判定の品質規格(粒径分布、分散安定性、残留溶媒・含水率など)を体系化し、SOP・検査証明の整備までを一気通貫で進める。大学研究チームと連携したスケール移行則の確立、設備設計と保守、供給網の冗長化、トレーサビリティと法令対応までを含め、安定した供給体制の確立を目指す。

考えられるユースケースとしては、第一にPFASのリアルタイム・モニタリングがある。浄水場や工場排水、河川・地下水の複数ポイントで高頻度に確認することで、日変動・降雨イベント・工程偏差の把握が容易になる。第二に除去プロセスの最適化がある。活性炭やイオン交換樹脂の投入量・交換タイミングを可視化により決定でき、除去装置の運転コストと性能の両立に資す。また、装置メーカーの営業・据付前評価において、現場デモで効果を一目で訴求できるため、提案の確度を高める。第三に仕入れ材料の受入検査。たとえばリサイクル材料や副生成物など多様なロットの混入リスクに対し、簡便なスクリーニングでPFASの“不意の持込み”を抑止する。さらに、汚染懸念地域での多拠点・広域観測を可能にし、自治体や事業者が“ホットスポット”を早期に把握して対応を前倒しできる。
共同実証・用途開発パートナーを広く募集
この取り組みを加速するため、NanoFrontierは共同実証・用途開発パートナーを広く募集している。水処理メーカー、PFASを製造・使用する企業、PFAS除去装置メーカー、LC-MS/MSのメーカー・販売事業者、PFAS問題に不安を抱える自治体や水道事業体の皆さまからの相談を歓迎する。現場データに基づく最適化、ラボ分析とのハイブリッド運用設計、運用マニュアル・教育プログラムの整備まで、“現場が回る”ソリューションへとご一緒に仕上げていく。
NanoFrontierの井上誠也代表取締役は次のようにコメントしている。
「Go-Tech事業の採択を大変光栄に思います。東北大学の研究チームと連携し、NanoFrontierは有機ナノ色素の量産と安定供給に正面から取り組みます。だれもがその場でPFASの有無を確認できる--この当たり前をインフラとして根付かせ、仙台から世界の水安全に貢献してまいります」
■Go-Tech事業について
「成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)」は、中小企業等が大学・公設試等の研究機関と連携して行う事業化志向の研究開発・試作開発・販路開拓を最大3年間一体で支援する制度。令和4年度から、旧「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)」と旧「商業・サービス競争力強化連携支援事業(サビサポ)」が統合され、より事業化・市場実装に直結する枠組みとして運用されている。
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