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2024/11/25
【PP製ストロー】ピーライフ・ジャパン・インク/慶應義塾大学/伊藤園/SI樹脂産業/慶應義塾先端科学技術研究センターの研究チーム、P-Life添加品の分解菌発見。日本分子生物学会で発表
ピーライフ・ジャパン・インクと慶應義塾大学、伊藤園、SI樹脂産業、慶應義塾先端科学技術研究センター(KLL)の研究チームは、プラスチックに生分解性を付与する添加剤「P-Life」(*1)を添加したポリプロピレン(PP*2)の分解菌を取得することに成功した。
この成果は、難分解性ポリオレフィン系プラスチック(*3)の微生物による分解処理を実現する上で重要な一歩となる。更に、これらの分解菌は、ポリオレフィン系プラスチックから生成されるマイクロプラスチックを分解・除去し、地球環境への蓄積解消に有効であると期待される。
本成果は、2024年11月28日の日本分子生物学会で発表される。
主要研究者:慶應義塾大学理工学部 生命情報学科 二木彩香氏、KLL研究員 黄 穎氏、慶應義塾大学理工学部 生命情報学科教授 宮本憲二氏、ピーライフ・ジャパン・インク 冨山 績 氏、SI樹脂産業 安倍義人氏、伊藤園 内山修二氏
本研究のポイント
1.鎌倉市立西鎌倉小学校の土壌よりP-Lifeを添加したPPの分解菌を複数発見した。
2.これらの分解菌をP-Lifeを配合したポリオレフィン系素材のプラスチックストローに作用させたところ、明確な分解痕を確認した。
3.これら分解菌は、PPだけでなくP-Life含有PEも分解することが分かった。
研究の背景
近年、環境へのプラスチックの流出と蓄積が大きな社会問題となっている。中でも、PPやPEなどのポリオレフィン系プラスチックは難分解性であり、特にPPは自然界での微生物分解が非常に困難。このような状況の中、ピーライフ・ジャパン・インクにより、ポリオレフィン系プラスチックに生分解性を付与する添加剤「P-Life」が2003年に開発された。
P-Lifeは、PPを徐々に官能基を持つ低分子化合物へと変化させる。生成した低分子化合物は、自然環境に生息する微生物によってゆっくりと代謝分解されることが既に分かっている。そこで本研究では、2019年よりP-Life添加PPストローの微生物による代謝分解度の測定をJIS K6955法“プラスチックの土壌中での二酸化炭量測定による好気的究極生分解度の求め方”に基づき行ってきた。
しかし、土中での分解速度が比較的緩やかなこともあり、通常の手法ではこれまで分解菌の取得には至らなかった。そこで本研究チームでは、探索源や分離条件を工夫することで、このたび分解菌の取得(単離)にはじめて成功した。
研究の内容・成果
本研究チームは、2022年度に鎌倉市立西鎌倉小学校において、JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点の一環として、「地球に還るストロープロジェクト」(※1)を実施した。
このプロジェクトでは、給食で使用するプラスチックストローをP-Lifeを配合したPPストロー(P-Life添加PPストロー)に置き換え、西鎌倉小学校の校庭の土壌を採取し、同小学校の教員、生徒の協力のもと分解実証実験を行った。
持続可能な循環型社会について学びを深める教育プログラムであるとともに、これまで難分解とされてきたプラスチックごみを土に還す研究。また、この分解実証実験において使用した土壌には、優秀な分解菌が存在すると予想し、この土壌からの微生物探索を試みた。
なお本研究チームは、分解菌の発見の確率を上げるため、予めP-Life添加PPストローを加熱して熱分解処理を行った。次に、その熱分解処理物を、微生物が食べ易いと考えられるアセトンに可溶な低分子化合物群と、食べ難い不溶の高分子化合物群に分けた。そして、西鎌倉小学校で実証実験に使用した土壌から、これら2つの化合物群について分解菌を探索した。
その結果、低分子化合物群から2種類、高分子化合物群から3種類の分解菌をそれぞれ単離することに成功。次に、これら分解菌を用いて熱処理していないP-Life添加PPストローの分解能を評価した結果、ストロー表面に明確な分解痕を確認した(図1の右の写真)。
また、様々な場所から採集した土壌に、P-Life添加PPストローを加えて1カ月後の菌叢を、ストローを加えていないものと比較した。その結果、ほとんど全てのサンプルにおいて、P-Life添加PPストローを加えた時の分解菌の存在割合が大きく増加していた(図2)。したがって、この分解菌がメジャープレーヤーであることが強く示唆された。
今後の展開
P-Life添加PPの分解菌を発見し、高い分解能があることを明らかにした。また、本成果により見いだされた分解菌とP-Lifeを組み合わせることで、ポリオレフィン系素材を使用した製品の微生物による分解効率の大幅な向上が期待できる。
そのため本研究チームは、今後、P-Life添加ポリオレフィン系素材を使用した様々な製品(キャップ、ボトル、ラベルなど)やポリオレフィン系以外の素材についても、分解菌とP-Lifeによる微生物分解の効果を検証し、難分解性プラスチックの自然環境での循環に向けた取り組みを推進する。
※1 慶應義塾大学が代表機関となり、参画企業と参画大学、鎌倉市の共創による科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)地域共創分野育成型デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」のプログラムのことです。当プログラムは、地域大学等を中心とし、地方自治体、企業等とのパートナーシップによる、地域の社会課題解決や地域経済の発展のための自立的・持続的な地域産学官共創拠点の形成を目的としたもの。
<学会発表情報>
第47回日本分子生物学会、11月28日、福岡国際会議場 マリンメッセ福岡
演題:P-Life含有ポリプロピレンの微生物分解メカニズムの解明
演者:二木彩香、黄 穎、冨山 績、安倍義人、内山修二、宮本憲二
*1 P-Life
微生物分解が困難とされる難分解性プラスチックを、微生物分解へと導く添加剤。難分解性プラスチックは、P-Lifeにより官能基を持つ低分子化合物へと変化し、微生物により分解されやすくなる。さらにP-Lifeは, 植物油から製造されており、安全性の高いものである。また、P-Lifeは、PPの物性や加工性に影響を与えない。
*2 ポリプロピレン(PP)
水素と炭素から構成される合成樹脂で、日常で最も目にするプラスチック素材の1つ。ポリエチレン(PE)と比べて硬く、耐熱温度も高い点が特徴。
*3 ポリオレフィン系プラスチック
単純なオレフィンをモノマーとして合成された高分子化合物の総称。代表的なものとして、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)がある。一般的に、微生物による分解(自然界に存在する微生物の働きにより最終的にCO2と水に完全に分解する)は困難で、環境中に廃棄されたプラスチックの多くは蓄積されてしまう。
*4 菌叢(きんそう)
細菌以外も含めて、ある一定の環境に存在する微生物群。マイクロバイオームとも呼ばれる。
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